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ブランディングの戦略家が【ブランド戦略の全て】を解説するブログ

ブランドマネージャーとは|ブランドマネージャー制度の利点と欠点

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あなたがマーケティング担当者なら「ブランドマネージャー制」あるいは「ブランドマネージャー制度」という言葉は、どこかが耳にしたことがあるだろう。

誤解を恐れずに単純化するなら、企業は「戦略」と「組織」という2つの要素で成り立っている。しかし、こと「ブランディング」においては「戦略」をテーマにした書籍は豊富に揃っているのに対して「ブランドマネジメント」を組織の側面から真正面からとらえている書籍は驚くほど少ない。

ビジネスの世界ではよく「組織は戦略に従う」と言われるが、それはブランディングも例外ではない。

そこで今回は、優れたブランディングを展開する上で有効な選択肢の1つとなる「ブランドマネージャー制」を取り上げて解説する。ブランドマネージャー制とは、主に外資系企業で採用されているブランドマネジメント組織の形態であり、その起源はP&Gであるとされる。

つい「P&G」あるいは「外資系企業のブランド戦略」などのキーワードが出てくると「ブランドマネージャー制度=先進的」という誤解を招きがちだが、ブランドマネージャー制にはメリットだけでなく大きなデメリットも存在する。

この解説記事をご覧になっているあなたは、おそらく現職のブランドマネージャーの方か、ブランドマネージャー職への転職を検討されている方、あるいはブランドマネージャー制の導入を検討している上級マネジメントの方だろう。

もしあなたが上記のどれかにあてはまるなら、本記事を最後までお読みになればブランドマネージャー制度のメリットとデメリット、そしてブランドマネージャー制を運用する上で押さえておきたい勘所がご理解いただけるはずだ。

 

ブランドマネージャー制とは?ブランドマネージャー制度が求められる背景

ブランドマネージャー制とは何か?

ブランドマネージャー制とは、端的に言えば「1人の担当者が、商品ブランドに対する全責任を担う制度」のことを指す。いわば1つ1つの商品ブランドの収益に責任を持つポジションを組織内に設け、新商品開発から損益責任、ブランドエクイティの構築に至る全てを、そのポジションの人材(=ブランドマネージャー)に任せる組織形態ことだ。

ブランドマネージャー制とは

1人の担当者が、新商品開発から損益責任、ブランドエクイティの構築までを一貫して担う、ブランドマネジメントの組織形態

やや乱暴だが、ブランドマネージャー制とは1人の担当者が「ブランドという冠を持つ1つの企業を経営する」組織形態とも言える。ブランドマネージャー制においては、ブランドマネージャーは担当するブランドの事業部長であり、CEOだ。そして社内のすべての組織はブランドマネージャーをサポートするスタッフ組織という位置付けとなる。

ブランドマネージャー制は1950年代に米国製造業で普及したといわれるが、近年では徐々に日本にも普及しつつある組織形態だ。

ブランドマネージャー制度が求められる背景

多くの企業はスタートアップ段階では、自社内に1つの商品ブランドしかも持たないことが多い。よって必然的に「企業名=商品ブランド名」となる場合がほとんどだ。結果、戦略にまつわる重要な意思決定はリーダーである経営者が担い、従業員には相対的に重要度の低い単純作業のみを委譲されることが多い。

しかしビジネス規模が拡大し商品ブランド数が増加すると、業務は急速に高度化・多様化していく。そうなれば、経営者個人だけでは、多数の商品ブランドを管理し適切な意思決定をすることが難しくなる。

結果、多くの組織は機能別組織へと発展していく。機能別組織とは、例えば「研究開発部門」「商品開発部門」「生産部門」「営業部門」「アフターサービス部門」など、専門別に分権化された組織形態のことだ。企業が機能別組織に移行していくに従い、個々の意思決定や業務は、徐々に機能別部門に委譲されていくことになる。

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機能別組織が秀でている点は「専門性」と「効率性」だ。機能別組織では、同じ専門性を持った仲間が1つの部門に集約されるため情報や知識が共有しやすく、当該分野における専門性は高まりやすい。

また、部門内のメンバーが似たような業務プロセスで業務を行うため標準化がしやすく、組織としての効率性が高まるというメリットが存在する。

市場が拡大し、企業が急速に成長していくステージにおいては、機能別組織によるブランドマネジメントは、それ以前の俗人的でワンマンなブランドマネジメントスタイルに比べて格段に効果的かつ効率的だ。

しかし市場が成熟化していくと、機能別組織は大きな問題を抱えることになる。

一般に分業すると、その仕事の切れ目を境にして異なる組織文化が発達する。異なる仕事を任されると、異なる環境に日々直面するようになり、何を大事に思うか?という価値観が、その環境ごとに異なってくる。

その結果、個々のブランドに対する責任の所在が曖昧になりやすい。つまり、機能別組織は専門性や効率性に優れる反面「ブランドの利益」という「部門を横断した視点」を支える「組織上の仕組み」が存在しないため、市場成熟期においてはブランドマネジメントの機能不全が露呈していくのだ。

ブランド全体に目配りをしている司令塔がいないということは、個々のブランドのブランディング活動が一貫性を伴って実行されているかどうかを、組織的に確認できないことを意味する。その結果、各部門が自分の担当範囲のことしか考えず、誰も「ブランド全体を考えない」という状態が放置されるため、部分最適が進行し、ブランディング活動の一貫性が失われていくのだ。

また、部分最適はビジネスのスピードにも悪影響を与える。部分最適は「すべての部門が納得する戦略」という「全部門のコンセンサス」を重視する文化を助長し、稟議書・根回しは「誰一人として意思決定のプロセスからはみ出るものがないように」と、膨大な時間をかけるようになる。さらに、あまりにも多くの承認を必要とするために、大胆もしくは独自性のある戦略は承認者を通過するごとに少しずつ角を削られ、中庸なものになっていきがちだ。

しかし残念ながら、10人が10人賛成しやすい戦略は、社内を通しやすいかもしれないが、それは競合他社にとっても社内に通しやすい戦略となる。その結果、市場導入したとしてもすぐに競合他社に模倣され、その市場はレッドオーシャンとなりやすい。

一方で、例えば10人に2人しか賛成しない戦略は、競合他社も意思決定をためらう戦略となる。しかしその戦略がリスク以上に市場機会を捉えたものであれば、競合他社が追随しずらい分、大きなファーストムーバー・アドバンテージを得ることが可能となる。

このファーストムーバー・アドバンテージを得る上では、時間がかかり、かつ戦略の角が削られやすい機能別組織は不向きだ。

また、機能別組織はピラミッドを機能別に分割し、設計・運用されている。しかしブランディングやマーケティングの本質が、ビジネスの成果をプロセス=横串しで決定しているのであれば、機能別組織はその本質に対応していないことになる。

市場の変化が激しい今日においては、プロセスを「敏速に操縦」する力が必要だ。しかし縦割りの機能別組織のままでは迅速に動けない。

1950年代にこれらの弊害が顕著に起きたのがP&Gであり、それら克服するために構築した新たな仕組みがブランドマネージャー制だ。ブランドマネージャー制の大きな利点は、変化に柔軟に対応できることだ。

近年は多くの市場が成熟化し、ブランド体験の一貫性が強く求められている。また、市場のニーズが多様化する中できめ細かく対応しようとすれば、必然的に企業が擁するブランドは多ブランド化していく。そのような変化に対応するには、ブランドの「司令塔」であるブランドマネージャーを置き、ブランドマネージャーの方針にもとに各部門が横断連携する仕組みを形創ることは、非常に有効なブランドマネジメント手法の1つとなる。

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ブランドマネージャーとは?ブランドマネージャーの役割とスキル

もしあなたの企業が機能別組織の形態を採っていれば「研究開発部門」「商品開発部門」「生産部門」「営業部門」「アフターサービス部門」など、それぞれの部門のメンバーが、それぞれに専門特化した業務を行っていることだろう。

しかし前述した通りブランドマネージャー制度は「1人の担当者が、商品ブランドに対する全責任を担う制度」であり、いわば「担当するブランドCEO」だ。

よって、ブランドマネージャー制におけるブランドマネージャーの役割は広範囲にわたる。以下、代表的な業務をプロセス形式で簡単に解説しよう。

ブランドマネージャーの役割とスキル-1:事業計画策定フェーズ

ブランドマネージャーの役割の1つ目は、事業計画の策定だ。

新商品のアイデアやコンセプトの立案はもちろん、ブランドのアイデンティティやポジショニング、STP戦略の策定を行うのが主な業務となる。

 さらには、新商品開発の方向性や5か年計画、設備投資計画等を策定し、トップマネジメントの稟議を諮るのもブランドマネージャーの重要な役割だ。そして無事稟議が決裁された際には新商品開発推進チームを発足させ、社内の各機能部門をコーディネートすることになる。

ブランドマネージャーにとって、この段階で必要となるスキルは以下の通りだ。

ブランドマネージャーに必要な知識とスキル
  • 市場機会・消費者インサイトを発見するための「洞察力」
  • ブランド戦略やSTP戦略を策定するための「戦略立案能力」
  • 5か年計画や投資計画、予測PLを策定するための「会計・財務知識」
  • 稟議を経営会議や取締役会へ通すための「プレゼンテーション能力」

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ブランドマネージャーの役割とスキル2:商品開発フェーズ

ブランドマネージャーの役割の2つ目は「マーケティングの4P」の1つである商品開発だ。

この段階になると、ブランドマネージャーは多くの部門との協働が求められるようになる。例えば開発候補の消費者テストでは市場調査部門、商品の成分や技術に関しては研究開発部門、生産設備や金型設計では生産部門、パッケージデザインでは資材部やデザイナーの協力が必要になる。

そして最終的には新商品の仕様を完成させ、再び経営会議や取締役会へ商品稟議を上げることになる。

この段階でブランドマネージャーに求められる知識・能力は下記の通りだ。

ブランドマネージャーに必要な知識とスキル
  • 市場調査に関する知識・スキル
  • パッケージデザインに関する知識・スキル
  • 商品製造の原価計算に関する知識・スキル
  • 多くの部門を率いるプロジェクトマネジメント能力
  • 各部門から知恵やアイデアを引き出すファシリテーション能力

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ブランドマネージャーの役割とスキル-3:新商品投入計画フェーズ

ブランドマネージャーの役割の3つ目は、マーケティング目標の設定及び「マーケティングの4P」の残り3つである「流通戦略」「価格戦略」「プロモーション戦略」の策定だ。

 無事に商品稟議が通ったら、ブランドマネージャーはマーケティング目標の設定を行う。すでに5か年計画は「事業計画策定フェーズ」で立案済だが、それを詳細にブレークダウンするイメージだ。

マーケティング目標とは、具体的には「売り上げ」「粗利益」などの財務目標と「ブランド認知率」「購入意向率」「購入経験率」「流通取り扱い率」などのマーケティングKPIの2つを指す。

 k_birdの経験上、スーパーやドラッグストアで売られる数百円程度の店頭消費財の場合、ブランド認知率60%で約15%の購入経験率、ブランド認知率70%で約20%の購入経験率となることが多い。そしてこの購入経験率が15~20%に達しないと、その年の新商品はなかなかテイクオフしないのが経験則上の実感だ。

このように、マーケティング目標の設定は新商品の命運を大きく左右する。また「流通戦略」や「価格戦略」「プロモーション戦略」の原資にも大きな影響を与えるため、過去の新商品導入の実績等を踏まえながら慎重に設定しよう。

マーケティング目標の設定ができたら、次にブランドマネージャーが行う業務はマーケティングミックスの策定となる。

プロモーション戦略を主軸にニーズの創造を目指す「プル戦略」を展開するのか、流通への刺激を通した配荷促進を主軸においた「プッシュ戦略」を主軸に置くのかを念頭に置きながら、マーケティングミックスの費用配分を行ってく。

さらに流通戦略では、例えば「エリア別」「チャネル別」「サイズ別」などの切り口で配荷目標をブレークダウンし、月別支店別の販売計画に落としていく。

価格戦略では流通段階別の流通マージンを設定しながら価格体系・販売手数料・リベート方針などの価格ガイドラインの策定が必要となる。

プロモーション戦略では広告コンセプトを策定した上で広告会社へのプレゼンテーションの依頼を行い、広告表現やメディアミックスプランを決定する。

新商品投入計画フェーズでは、成果のカギを握る営業部門や支店営業、あるいは広告代理店との協働が増えることになる。この段階でブランドマネージャーに求められる知識・能力は下記の通りだ。

ブランドマネージャーに必要な知識・スキル
  • マーケティングKPIに関する知識・スキル
  • マーケティングミックス全般に対する知識・スキル
  • 広告表現制作・メディアミックスに関する知識・スキル
  • 流通支援策・販売促進に関する知識・スキル
  • 営業本部や支店営業に対するプレゼンテーション能力・折衝力
  • 社内外のスタッフを率いるプロジェクトマネジメント能力
  • 社内外のスタッフから知恵やアイデアを引き出すファシリテーション能力

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ブランドマネージャーの役割とスキル-4:新商品投入&フォローアップフェーズ

ブランドマネージャーの役割の4つ目は、新商品投入&フォローアップだ。

新商品投入時の主な業務は新商品発表会、定番棚の確保、導入時の大量陳列(エンド陳列・アイランド陳列)の確保などが挙げられる。

また導入後のフォローアップとして必要となる業務は以下の通りだ。

  1. HUT(ホームユーステスト):
    「1カ月」「3カ月」「6カ月」「1年」などの期間を設けたホームユーステスト(実際に購入し使用いただいたお客様への調査)。商品の満足度・不満・使われ方等が想定通りか確認する。
  2. ブランドトラッキングサーベイ:
    ブランドの認知率やブランドポジショニングの浸透度合い、購入経験率を把握する調査。想定ターゲットとのズレや広告認知・伝達内容等を確認する。
  3. 価格動向チェック:
    チラシモニターやPOSによる価格推移の把握。想定した小売価格で販売されているかどうか、価格下落が生じていないかどうかを確認する。問題が生じていれば営業部門にフィードバックし問題解決を行う。
    参考:価格戦略とは|価格設定の種類と価格マネジメントの方法|事例有
  4. 配荷動向チェック:
    チェーン別・エリア別・サイズ別の配荷推移の把握。想定目標とのズレが生じていれば営業本部や支店営業へフィードバックし、問題解決を行う。
  5. トライアル動向チェック:
    トライアル購入率、購入ボリュームをチェック。想定目標との乖離があれば広告宣伝部門や販売促進部門にフィードバックを行い、問題解決を行う。
  6. リピート動向チェック:
    リピート購入率、購入ボリューム、購入頻度をチェック。想定目標との乖離があれば上記1の「HUT(ホームユーステスト)」との結果を照らし合わせながら問題を特定。開発部門や生産部門へフィードバックし、問題解決を行う。

上記の結果をもとに、必要であればマーケティングミックスのチューニングを行う。例えば競合ブランドへのカウンターのために、広告原資を販促原資にシフトする、あるいはブランドポジショニングの更なる浸透強化のため販促原資から広告原資にシフトする、などが典型例だ。

特に競合ブランドの反応は、支店営業経由で判明することが多い。よってブランドマネージャーはリアルタイム情報を把握するためにも、支店営業との関係づくりに努めておきたいところだ。

この段階でブランドマネージャーに求められる知識・能力は下記の通りだ。

ブランドマネージャーに必要な知識・スキル
  • 社内外のスタッフを率いるプロジェクトマネジメント能力
  • 各種マーケティング施策のモニタリング能力
  • 課題発見能力
  • 問題解決能力

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ブランドマネージャー制を機能させるための勘所

市場が成熟化し、生活者の価値観が多様化している現在において、ブランドマネージャー制はブランディングやマーケティングを有効に機能させるための有力な選択肢の一つとなる。しかし一方でブランドマネージャー制は形から入ると失敗も多い。その原因は、おおむね以下の3点に分類できる。

  • ブランドマネージャーの責任と権限の不一致
  • サブブランドの乱立
  • 短期成果主義に陥る

以下、ブランドマネージャー制で生じがちな課題を解説しつつ、ブランドマネージャー制を有効に機能させるためのポイントを解説しよう。

ブランドマネージャーの「責任と権限の不一致」を解消する

ブランドマネージャー制に生じがちな課題の1つ目は、責任と権限の不一致の問題だ。

組織設計の原則に従えば、ブランドマネージャーの「責任」と「権限」は一致していなければならない。なぜなら「責任を課せられているのに権限がない」状態であれば、そのブランドマネージャーは責任を課せられたまま徒手空拳の状態となる。逆に「権限はあるのに責任がない」状態は、いわば「やりたい放題のやりっぱなし」だ。

しかし、ブランドマネージャー制においては、その組織の在り方上、ブランドマネージャーの責任と権限が一致しない。それを理解するために、再度以下の図をご覧いただきたい。

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ブランドマネージャーは、ブランドの収益に対して「責任」を課せられるポジションであることはすでに述べた。しかし一方でブランドマネージャーは「研究開発部門」や「商品開発部門」あるいは「生産部門」「営業部門」「アフターサービス部門」のスタッフを動かす公式な権限が存在しない。なぜならブランドマネージャーは各機能部門との関係が「上下関係ではなく並列関係」であり、各機能部門のスタッフには「直属の部門長」という「上司」が存在するからだ。

各機能部門のメンバーから見れば、自分を評価し自分の給料を決めるのは自分が所属する部門の「直属の上司」であり、ブランドマネージャーではない。いわば、組織設計上は「機能部門のメンバーは、ブランドマネージャーの言うことを聞く筋合いはない」状態となる。

ブランドマネージャーから見れば、何の権限もないまま職位の壁を越えて自分の考える戦略を説明し、説得に苦労を迫られることが少なくない。

実際にk_birdは、あるブランドマネージャーが「手腕を発揮する手立て」が存在してない企業に転職し悲惨な経験をした実態に出くわしたことがある。

そのブランドマネージャーはアメリカの大学でMBAを取得したあと、世界的な飲料メーカーのブランドマネージャーを経て、その企業にブランドマネージャーとして転職してきた。

しかしその企業は形式上は「ブランドマネージャー制」を取ってはいたもののブランドマネージャーが機能部門を動かす手立てが存在せず、着任してみればブランドマネージャーとしてやれることが「市場調査」と「店頭POPの制作」だけだったという。

ご本人は大変優秀な方で、必死に突破を試みたがかなわず、残念ながら半年後には別の企業に転職してしまった。

このように「ブランドマネージャーがリーダーシップを発揮できる手立て」がないと、ブランドマネージャー制は機能しないどころか、時に優秀な人材を社外に流出させてしまうリスクすら孕む。

これらの欠点を解消するために、k_birdが考える「ブランドマネージャー制を機能させるための勘所」は以下の3点だ。

  • 新商品開発や戦略策定の稟議権限をブランドマネージャーに集約する
  • 各種マーケティング予算の執行権限をブランドマネージャーに集約する
  • ブランドマネージャーが「人事評価権限」以外のパワーを行使するスキルを身につける

以下、簡単に解説しよう。

新商品開発や戦略策定の稟議権限をブランドマネージャーに集約する

ブランドマネージャー制を有効に機能させている企業では、新商品の開発やマーケティング戦略の策定に関する稟議権限をブランドマネージャーに一本化させている。

このように稟議権限をブランドマネージャーに一本化する仕組みを取り入れれば、ブランドマネージャーはトップマネジメントに対して提案権限を持つ唯一の結節点となる。

すると「研究開発」「商品開発」「営業」などの機能部門からすれば「自分達が成果を上げる」ためには、自分達のプランを必ずブランドマネージャーに通さなければならなくなる。このような仕組みを取り入れることができれば、ブランドマネージャーは各機能部門に対してリーダーシップを発揮しやすくなる。

各種マーケティング施策の予算執行権限をブランドマネージャーに集約する

ブランドマネージャーに予算執行権限を一本化すれば、各機能部門は業績を上げるための施策を独自に打てなくなる。その結果、ブランドマネージャーは各機能部門に対してリーダーシップを発揮しやすくなる。

ブランドマネージャーが「人事評価権限」以外のパワーを行使するスキルを身につける

経営組織論の世界では、他社への影響力を行使する源泉として「5つのパワー」が存在するといわれる。この「5つのパワー」は「組織的な仕組み」というよりは「ブランドマネージャー個人のスキル」に負う面が大きいが、非常に有用な考え方なので紹介しよう。

「5つのパワー」の1つ目は「正当性のパワー」と呼ばれるものだ。

「正当性のパワー」とは組織の公的な仕組み・風土に基づいた影響力の行使を指す。前述した「稟議権限や予算執行権限の集約」は「正当性のパワー」を発揮する根拠となる。

次に「5つのパワー」の2つ目は「報酬のパワー」だ。

しかし残念ながらブランドマネージャー制においては、ブランドマネージャーは各機能部門メンバーに対する評価権限がなく「金銭的報酬」や「昇進による報酬」は行使できない。

しかし近年の組織行動論の研究では、人は「金銭や昇進」だけでなく「承認による報酬」「ビジョンやミッションの共鳴による報酬」「やりがいや醍醐味の報酬」などの「コミュニケーション報酬」も影響力と源泉となることが確認されている。

ブランディングやマーケティングは、突き詰めれば商品やサービスを通して生活者を幸福にし、社会をより良い場所へと変えていく仕事だ。

ブランドマネージャーは収益責任が課されているため、つい「売り上げ」や「利益」を求めがちだが、ぜひ、それよりも大きな志や使命感を持って欲しい。その志や使命感に共鳴した仲間が、部門を超えて味方になってくれるはずだ。

 続いて「5つのパワー」の3つ目は「処罰のパワー」だ。

「処罰のパワー」といわれると仰々しい響きがあるが、解釈を帰れば「いち早くリスクを見抜き共有することで影響力を行使する」ことと解釈できる。

行動心理学の世界では、人はメリットよりもリスクのほうが2倍、敏感だとされる。もし、ブランドマネージャーが機能別部門に先駆けてリスクを発見し、それを納得できる形で示せれば、機能部門のメンバーはいち早く対応してくれるはずだ。

続いて「5つのパワー」の4つ目は「専門性のパワー」だ。

「専門性のパワー」とは、当該分野に対して誰よりも詳しい「専門家」とみなされることで影響力を行使するパワーだ。

ブランドマネージャーは、組織の中に唯一存在する「生活者インサイト」「ブランド戦略」の専門家だ。ブランドマネージャーにとって、インサイトやブランド戦略に根ざした「データ」「洞察力」「判断力」「論理構成力」は、各機能部門のメンバーを説得する上で、重要な影響力となる。

最後に「5つのパワー」の5つ目は「準拠・尊敬のパワー」だ。

「準拠・尊敬のパワー」とは、多くの部門からブランドマネージャーが「一目置かれる」状態を指す。いわばあなた自身がブランドになっている状態だ。

「ひょっとしたら、あの人の言うことは本当かもしれない」「あの人の言う通りにやったら、自分もやりがいのある仕事ができるかもしれない」など、いわば部門を超えて「信者」が増えている状態ともいえる。

社内の関連部門を動かすためには、事実やロジック、洞察力が必要だ。しかし時に、あなた自身の「情熱」や「志」あるいは「覚悟」など、青臭い人間力も必要となる。

「準拠・尊敬のパワー」を身につけるには成果の積み重ねが必要不可欠となるが「情熱をもってブランドのことを語る姿」や「何回もあきらめずに挑戦する姿勢」などを何度も目撃すると、人は「この人のことは信じてもいいな」という気持ちにもなる。

人を動かすということは、本質的には権限で行うことではない。ぜひブランドマネージャーとして「単なる理屈の正しさ」以上の情熱を加えて、ブランディングやマーケティングを成功に導いてほしい。

サブブランドの乱立を阻止する

ブランドマネージャー制が失敗しやすい原因の2つ目は「サブブランドが乱立しやすい」こと。

ブランドマネージャー制は機能別組織の「縦割」を防ぎ、ブランド単位でマーケティングを管理していく仕組みだが、一方で「ブランド間」を調整する仕組みが存在しないことによる弊害も存在する。

ブランドマネージャー制では、ブランドマネージャーは自身の担当ブランドにとっての最善を目指して行動する。そして年単位で収益責任を課せられていることもあり、短期的な収益が得られそうな市場を追い求めていく。

ブランドマネージャー制とは、そもそもは複数ブランドをブランド単位で管理する仕組みだ。しかし複数のブランドマネジャーが短期的な収益が得られそうな市場を追い求めてサブブランドを乱発していけば、いつしか企業は「サブランドだらけ」となる。さらにはサブブランド同志が「似たようなニーズ」「似たような市場」を求めて同質化していくため、カニバリ(=自社内の喰い合い)を起こすようになる。

この問題に対応する上で有効なのが、ブランドマネージャー制の上位にカテゴリーマネージャーを据えることだ。

カテゴリーマネージャーは、複数のブランドマネージャーを管理し、ブランドマネージャー間の競争が激化して、カテゴリーや会社にとって不利益がでないように調整する役割を担う。

また巨大な小売チェーンに対して商品カテゴリ全体で対応を考えるのもカテゴリーマネージャーの役割だ。

ブランドマネージャーは商品を通して夢を見る人材が適切である反面、カテゴリーマネージャーは冷静にブランドポートフォリオを組む嫌われ人材が適任であるとされる。

企業が持つブランドは「投資が必要なブランド」「現状維持のブランド」「利益獲得のブランド」「消滅させるブランド」の4つに分けることができる。これらの中で「消滅させるブランド」を特定して撤退の意思決定を下し、サブブランドの乱立や自社内カニバリを阻止するのもカテゴリーマネージャーの役割だ。

短期成果主義に陥るのを阻止する

ブランドマネージャー制が失敗しやすい原因の最後は、ブランドマネージャーが「短期成果主義」に陥りやすいことだ。

ブランドとは「生活者からの感情移入を獲得し、できるだけ多くの生活者から指名買いされる状態にすること」であり、長期にわたる一貫性と継続性が求められる。

参考までに、下記のグラフをご覧いただきたい。

ブランド連想とは?ブランド連想の成功例と失敗例を徹底解説

このグラフは、ある時期の転職サイトの検索数推移を表したグラフだ。

転職サイトA(赤色)は、転職サイトB(青色)と比べ、検索数が多いことがご理解いただけるはずだ。これは「指名で検索してくる見込み客が多い」ことを示しており、ブランドとして成功している例だ。

そして注目すべきは一般ワードである「転職サイト(緑色)」と「転職サイトA(赤色)」との比較だ。この転職サイトの事例では、今や多くの転職志望者が転職情報を探す際に「転職サイト」と打ち込んで検索するよりも「転職サイトA」の名前を打ち込んで検索する人のほうが多いことを示している。

このように、ブランドの一貫性・継続性を保ちながらブランディングを続けていくと「競合ブランドとの比較をせずに」「指名で選んでくれる」生活者が増えていく。

ブランド戦略は、短期的な成果だけでなく長期的な成果を目指して、上記の転職サイトの事例のような「ブランドエクイティ」を構築していくことが求められる。

しかしブランドマネージャーは収益責任が課せられることが一般的であり、1年単位でトップマネジメントに報告が求められるため、時にブランドエクイティの構築に気が回らなかったり、最悪の場合、ブランドエクイティを壊してまで短期の成果を追い求めることもある。

これらの弊害を阻止するためには、マーケティングKPIを「売り上げ」や「利益」だけに置くのではなく「ブランド認知度」「ブランドポジショニングの浸透度」「ブランド連想」など、ブランドエクイティ関連指標を設定することが不可欠だ。

重要なことなので繰り返すが、ブランド戦略は「競合ブランドとの比較をせずに」「指名で選んでくれる」生活者が増やしていく取り組みだ。

その実現は決して簡単なことではないが、それは競合他社も同様だ。短期的な財務指標だけでなく、長期的なブランドエクイティ指標を置き、長期的なブランディング投資を行えば、それは競合ブランドには追随できない大きな競争力となるはずだ。

 

ブランドマネージャーの本:ブランドマネージャー経験者の書籍6冊

締めくくりに、ブランドマネージャーになりたい人へのお薦め書籍を紹介しよう。選定した基準は下記の通りだ。以下のどれかに当てはまるものをピックアップした。

  1. ブランドマネージャー経験者が執筆した本
  2. k_birdが実際に読み、単純に「素晴らしかった」と思えるブランディング関連本。
  3. 長年に渡って読み継がれており、時代を越えても変わらない「本質」や「原理」が見出せる本。

もちろん、すべて「なぜ読むべきなのか?」という解説付きだ。

ブランドマネージャー経験者の本-1:グローバル企業に学ぶブランドマーケティング

日本企業は、ブランド戦略が苦手だといわれる。

もしそうなら、コカコーラやユニリーバなど、ブランディングに長けたグローバル企業の方法論から学ぶが早道だ。

本書は、様々なグローバル企業でブランドマネージャーの経験を積んだ著者が、消費者調査や流通管理をはじめとしたブランド構築のポイントを、なんと90の項目にわけて解説してくれている本だ。

このブログを読んでいるほとんどの方は、日本の企業で働いていることだろう。
だからこそ、日々の職場では学びづらい、外資系企業ならでは方法論は有益なノウハウとなるはずだ。

 

ブランドマネージャー経験者の本-2:事例でわかる! ブランド戦略【実践】講座

どんなに優れたブランド戦略も「実践」に結びつけることができなければ、その成果はゼロだ。

本書は、事業会社出身のブランドコンサルタントが、ブランド戦略の「実践」を指南した解説書だ。

本書の著者は、味の素ゼネラルフーズ、マキシアム・ジャパン、ハーシージャパンなどでブランド・マネージャー、マーケティング・マネージャー、マーケティング・ディレクターを歴任し、豊富な実戦経験を持つ。

上記の企業はどれも、決してNo.1企業ではないが、そうであるがゆえにガリバーブランドとの戦い方や、その実践法は傾聴に値する。

単なる机上の理論に留まらない「現場」を意識した実践指南は、多くのマーケティング担当者にとって貴重な示唆となるはずだ。 ※「アマゾンなか見!検索」有

ブランドマネージャー経験者の本-3:USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

本書の執筆者である森岡 毅氏は、P&Gジャパンでヴィダル・サスーンのブランドマネージャーを勤めた後、P&G世界本社でパンテーンのブランドマネージャーを歴任した凄腕のマーケッターだ。

また、森岡氏は経営難に陥っていたUSJのCMOとして乗り込み、劇的にV字回復差せたことで知られる。そんな森岡氏が、USJのV字回復の軌跡を「マーケティング理論に当てはめて」執筆したのが本書だ。

アマゾンのレビューを見れば納得頂けると思うが、本書は単なるマーケティング事例本ではない。STPやマーケティングミックスなどのフレームワークを「そもそも論」から解説した上で、更にそれらを「実務に活かす方法」にまで落とし込んで解説しているマーケティングの名著だ。

実話に基づいてるだけに実務上の示唆も多く、あらゆるマーケティング担当者が読むべき本と言えるだろう。

ブランドマネージャー経験者の本-4:確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力

あらゆる現象にはその背景に、それらを引き起こしている根本的な原理や力学が存在する。

本書は、ユニバーサルスタジオジャパンを成功の導いた2人のマーケティング担当者が、マーケティングを成功させるための原理や力学を数式で解き明かし、勝つ確率の高い戦略を解説してくれている書籍だ。

副題に「数学マーケティング」とある通り、数字や統計を使って極めて論理的に解説されているため、わかっていたようでわかっていなかった「目からウロコ」がもたらされるのが特徴だ。

本書の共著者2人は、マーケティングの神様として名高いP&Gの世界本社で活躍した経験を持つ。そのため、ところどころにP&G時代のノウハウや経験も散りばめられている。

もしあなたがP&G流のマーケティング知識やスキルを極めたければ、本書は必見の書籍となるはずだ。

ブランドマネージャー経験者の本-5:改訂 シンプルマーケティング

本書は、大手嗜好品メーカー及び大手外資系パッケージグッズメーカーでブランドマネージャーを経験した著者が、マーケティングの基礎を「シンプルに」解説してくれる良書だ。k_birdにとっては想い入れが深く、何度も読み返すことで成長させてくれた本の一つでもある。

この本の著者である森行生さんは古くからマーケティングエッセーをホームページ上で公開しており、k_birdが若かり頃、大量にプリントアウトして徹夜でむさぼり読んだのは懐かしい思い出だ。

本書には、著者が事業会社のブランドマネージャーとして培った当事者感覚と、現職であるコンサルタントとして培った客観的な視点の双方がふんだんに盛り込まれている書籍だ。

ブランドマネージャー経験者の本-6:なぜ「戦略」で差がつくのか。―戦略思考でマーケティングは強くなる

あなたは「戦略とは何か?」と聞かれて、明確に答えられるだろうか?

「戦略」は非常に抽象性が高いため、マーケティング初心者はつい「目に見える具体策」に目が向きがちだ。しかし戦略がしっかりと定義されていなければ、具体策は整合性がない散発的なもので終わり、成功はおぼつかない。

本書は、P&G、ダノン、ユニリーバ、日産自動車、資生堂のマーケティング部門を指揮してきた筆者が「戦略を立てるための根本的な考え方」を解説した書籍だ。

本書の特筆すべき点は、目的の設定の仕方、マーケティング資源の考え方、マーケティング資源の活かし方、戦略の実行部分まで網羅的に解説されてる点だ。

もしあなたが「戦略とは?」と聞かれて明確に答えられないなら、戦略について学ぶ1冊目としておすすめできる書籍だ。※kindle Unlimited(980円読み放題)対象書籍 ※記事執筆時点

その他の解説記事とおすすめ書籍

もしあなたが本解説以外にも関心があるのであれば、リンクを張っておくのでぜひ必要な記事を探していただきたい。

また、下記の記事ではより深くブランディングやマーケティングを学びたい方におすすめ書籍を紹介している。ぜひご覧いただければ幸いだ。

ブランディング・マーケティング関連のおすすめ書籍紹介

ビジネススキル・マネジメント関連のおすすめ書籍紹介

終わりに

今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。 

しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。

それでも、このブログに主旨に共感し、何かしらのヒントを得たいと思ってもらえるなら、ぜひこのブログに読者登録Twitterfacebook登録をしてほしい。

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