Mission Driven Brand

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ブランディングの戦略家が【ブランド戦略の全て】を解説するブログ

ブランディングが失敗しやすい2つの落とし穴

ブランディングの解体新書

このブログを読んでいるあなたなら、何らかの理由で「ブランディング」に関する悩みや問題意識をお持ちのはずだ。

k_birdは、ある時は外資系コンサルティングファームのコンサルタントとして、ある時は広告代理店の戦略プランナーとして、多くのクライアントのブランディングの現場を歩いてきた。長年の現場経験から「なぜ、うちの会社のブランディングはうまくいかないのだろうか?」というクライアント担当者の悩みには、以下の言葉が続くことが多い。

  • 「うちの会社は品質や技術力は抜群のはずなのに…」
  • 「うちの会社は販売力はあるはずなのに…」

残念ながら「品質」や「技術」あるいは「販売力」だけでは、強いブランドを創ることはできない。ではなぜ「技術力」や「品質」、あるいは「販売力」だけでは、ブランディングがうまくいかないのだろうか?

今回は「ブランディングが失敗しやすい2つの落とし穴」と題して「なぜ、ブランディングがうまくいかないのか?」についての解説を行う。

よく、日本企業はブランディングが下手だといわれる。あなたの会社を含めて、日本企業に共通する「ブランディングがうまくいかない落とし穴」を理解できれば、あなたのチームのブランディングに、有益な示唆となるはずだ。

 

ブランディングが失敗しやすい2つの落とし穴

日本企業はブランディングが苦手?

日本は中国に抜かれたとはいえ、未だ世界第三位の経済大国だ。さらにある調査によれば、日本の国際特許出願件数は、アメリカに次いで世界2位だという。

しかし、毎年様々な機関から公表されている「世界ブランド価値ランキング」なる記事を見ると、100位以内にランクインしている日本企業の数は一桁台にとどまることが多い。

日本企業がブランディングに長けていないことは、様々な研究者からもよく指摘されている。ところが「なぜ」日本企業はブランディングが下手なのかという原因については、あまり言及されていない。

安易な欧米礼賛は慎むべきだが「日本企業は…」と一括りに語られている以上、そこには日本企業全般に共通する課題があるはずだ。

その課題をk_birdなりに考察すると、以下の通りとなる。ぜひあなたのブランディングに役立ててほしい。

ブランディングが失敗しやすい落とし穴-1:過度な「モノづくり神話」への依存

あなたは「下町ロケット」というドラマをご覧になったことがあるだろうか?

非常に視聴率の高いドラマだったので「観た」という方も多いはずだ。この10月に第二弾が放送されるため、楽しみにしている人も多いことだろう。

「下町ロケット」とは、下町の工場が自社の技術でロケットを打ち上げるために、様々な困難を克服しながら、その夢を実現する物語だ。

日本人は第二次世界大戦の敗戦後、世界が目を見張るほどの復興と経済発展を遂げてきた。その原動力となったのは技術者の飽くなき追求によって築き上げられてきた品質の高さであり、信じられないような欠陥率の低さだ。

その結果、80年代には日本の工業製品が世界中で認められるようになり「Japan as No.1」と賞賛されるまでになった。

日本の技術者が成し遂げてきた戦後復興と高度経済成長は日本人の誇りだ。そして今なお「モノづくり神話」として日本人のDNAとして息づいている。

しかし、1990年代初頭にバブル経済が崩壊して、時代は大きな転換点を迎えることになる。どのような変化が起きたのかをまとめると、以下の2つだ。

  • 多くの市場が成熟化し、生活者は「モノの豊かさ」から「ココロの豊かさ」を重視するようになった。
  • 市場にはモノが溢れ、技術や品質は、生活者感覚に照らすとほとんど違いがわからないレベルで同質化してしまった。

上記の変化が起こると「技術」や「品質」を強みとしきた日本企業の競争力は相対的に低下することになる。現在の日本の家電メーカーや携帯電話メーカーの惨状がそれを如実に物語っている。

そして上記のタイミングは、日本に「ブランディング」という考え方が台頭してきたタイミングとも時が重なっている。ブランド論の大家といわれるアーカー教授の「ブランドエクイティ」という書籍が日本で出版されたのが1994年だ。いわば時代が「技術重視」から「ブランド重視」へ転換したタイミングだ。

私事で恐縮だが、k_bird自身にも、時代の転換点を感じた感慨深い記憶がある。

2008年ごろだったと思うが、通勤途中の電車の車内で、ある日本企業の携帯電話の広告を目撃したことがある。その広告には「世界最軽量!従来品より2gの軽量化を実現!」と謳われていた。

「いったい2gの軽量化にどのような意味があるのか?」と考えながらその広告を眺めていたが、iPhoneの初代機が発売されて日本国内を一世風靡したのは、そのわずか数か月後のことだ。

想像するに「2gの軽量化の実現」は、技術者にとって血の滲むようモノづくりの努力が必要だったはずだ。「世界初!」と高らかに謳われていたことからもわかる通り、その企業、あるいは技術者にとっては少ながらず誇りも伴ったことだろう。

しかし日本国内に社会現象を巻き起こしたのは、特段新しい技術は搭載されていなかったiPhoneの方だった。いわば生活者は「技術に裏付けられた2gの軽量化」よりも「画期的な技術はないが、自分の毎日をイノベーティブに変えてくれそうなiPhone」の方を選んだといえる。

また、掃除機ブランドである「ダイソン」も同様だ。

国内メーカーが「静音性の高さ(の微妙な違い)」を競っている最中、ダイソンは「機能美を兼ね備えた掃除機」を前面に打ち出し、数倍高い価格であるにも関わらず大きな成功をおさめた。

鋭いあなたなら「ダイソンは、サイクロン技術による吸引力の強さで売れたのでは?」と感じたかもしれないが、実はそうではない。ダイソンは「吸引力が変わらない」とは言っているが「吸引力が高い」とは言っていない。「吸引力の強さ弱さ」でいえば、実はダイソンより日本製の掃除機の方がはるかに上なのだ。

そうであるにも関わらず、多くの日本人が、今なお国産掃除機よりも、ダイソンを選んでいる。

ここまでお読みになるとわかる通り、生活者は「吸引力の高さ」や「静音性」という実利的な価値よりも、ダイソンが打ち出した「機能美」という感性価値の方を選んだことになる。

市場が成熟化し、生活者のニーズが「モノの豊かさ」から「ココロの豊かさ」にシフトすると「モノづくり」が提供する「実利的な価値」だけでは戦えなくなる。

そうであるにも関わらず、日本では今だ「モノづくり神話」が根強いため、生活者から見ればほとんど意味をなさないような小さな機能追加や品質改善を自社ブランドの競争力だと思い込み、いわば「どや顔」でアピールしている現状も散見される。

生活者が重視するのは、iPhoneやダイソンの例でも見られる通り「技術」だけでなく、感性や感情も含めた「得られる喜びの大きさ」だ。そして「過度なモノづくり神話への依存」は、ともすれば「技術」を重視するがあまり「生活者が感性や感情面で得られる喜びは何か?」という視点が抜け落ちる。

もし、あなたが「うちの会社のブランディングは、なぜうまくいかないのだろうか?」という問題意識を持っているのなら、まず第一に「単なる自社技術の自画自賛になっていないか?」を、ぜひ疑ってみてほしい。

ブランディングが失敗しやすい落とし穴-2:BtoB発想のブランディング

あなたのブランドの顧客とは、いったい誰だろうか?

この質問をマーケティング担当者にぶつけると、たいていは市場調査に基づき、セグメンテーション&ターゲティングを吟味した上での「ターゲット」が、答えとして返ってくる。

しかしマーケティング担当者と深くディスカッションすると「自社はそのターゲットに対してブランディングを展開するのだ」という強い意図が感じられないことも少なくない。

いわば「資料上」では、戦略に乗っ取った「ターゲット」が設定されているものの、実際のリアルな実務の現場では「設定したターゲットを相手にブランディングを展開する」という自覚が驚くほど希薄な担当者が多いのだ。

例えば自動車メーカーでは「戦略上のターゲット」は紙上で設定されているものの、実際のマーケティングの現場では「系列販売店がどう思うか?」を中心に議論が進んでいる様子が垣間見られる。

消費財企業でも、やはり商品ごとに「戦略上のターゲット」は紙上で設定されているものの、実際には「大型小売チェーン(のバイヤー)がどう思うか?」が話の中心になることもしばしばだ。

いわば「BtoC企業」であるにもかかわらず、実態は「BtoB企業的な発想」になってしまっているのだ。

このような発想になってしまうと「ブランディング」はうまくいかなくなる。その理由は以下の通りだ。

消費財企業が「BtoB的な発想」に陥ると、その企業の内側では、生活者ではなく系列販売店や小売店からの要望を優先させようとするインセンティブが働く。

系列販売店や小売店は集客できる商品が欲しいため、消費財企業に対して「目新しい新商品」を求めがちだ。消費財企業側としても、系列販売店や小売店の棚スペースを確保したい営業担当者の思惑も重なり、それに応える形で次々に新商品を乱発することになる。

そしてシーズンごとに新商品が乱発されると、当然、生活者は一つ一つの商品を覚えづらくなる。覚えづらくなれば、商品ブランドがなかなか育たなくなることは自明だ。すると「商品ブランド」に対する感情移入が起きず、いつまでたってもブランドが育たないという事態に陥る。

例えば、あなたも想像してみてほしい。

P&Gのシャンプーブランドといえば「パンテーン」「h&s」「ヴィダルサスーン」「ハーバルエッセンス」など、同じ市場に4つも強い商品ブランドが存在する。ユニリーバで言えば「Dove」「CLEAR」「モッズヘアー」など3つだ。

外資系企業は「生活者発想」が根付いており、同じ「シャンプー市場」でも多様化したニーズをよく見極めている。見極めた上でそれぞれのニーズに応えるために複数のブランドを用意し、ブランディングを展開している。

一方で「資生堂」と聞いて、あなたは「TSUBAKI」以外にどのようなシャンプーブランドが思い浮かぶだろうか?

さらにAppleの場合を考えてみよう。

Appleが展開している商品ブランドは「iPhone」「iPad」「iTunes」「Mac book」「iPod」「Apple Watch」などがすぐに思い浮かぶだろう。

一方で日本の家電メーカーが展開している「商品ブランド」と聞いて、あなたはどの程度思い浮かべることができるだろうか?

生活者不在のブランディングでは、新商品を乱発することよって企業ブランドの知名度は高まっていくが、個々の商品ブランドを育てることができない。個々の商品ブランドが創れないとロングセラーに育たないため、売り上げを積み増すためには新商品の発売しか選択肢がなくなる。結果、新商品の乱発に拍車がかかり、更に商品ブランドが育たなくなるという悪循環に陥る。

もし、あなたが「うちの会社のブランディングは、なぜうまくいかないのだろうか?」という疑問を持っているのなら「自社は、生活者不在のBtoB発想になっていないか?」についても、ぜひ疑ってみてほしい。

 

ブランディングプロセスの「入口」と「出口」

ここまでお読みになって、あなたは「ブランディングが失敗しやすい2つの落とし穴」についてご理解いただけたと思う。

この2つの落とし穴は、戦後から昭和に至る日本の成功体験に深く起因している。

「モノづくり神話への依存」は、冒頭でも述べた通り、日本にモノが足りなかった高度成長時代の成功体験だ。「良いものさえ作れば売れるはず」「技術力さえあれば売れるはず」という生活者不在の姿勢は、残念ながら市場が成熟した現在では通用しない。

さらに「BtoB発想のブランドマーケティング」もまた、高度成長時代の「系列化」「垂直統合化」の成功体験の名残だ。「商品を系列販売店に流せば売れる」「商品を小売店に押し込めば売り上げが立つ」「だから新商品を乱発する」もまた、ブランディングの障害となる。

そしてこの2つは、いわばブランディングのプロセスの中で「入口」と「出口」の関係でもある。

ブランディングプロセスの「入口」は商品開発だ。商品開発の段階で、その立脚点が「品質さえ良ければ…」「技術さえあれば…」と生活者不在になってしまうと、そもそもブランディングは入り口から間違うことになる。

一方でブランディングプロセスの「出口」は「顧客への喜びの提供」だ。しかし「顧客」を系列販売店や小売店に置いてしまうと「出口」部分の真の目的を見失うことになる。

そして「入口(立脚点)」と「出口(目的)」の両方が間違っていれば、ブランディングがうまくいかないことは自明の理だ。

もっと顧客とブランディングに目を向けよう

冒頭でも述べたが、日本企業はブランディングが下手だ、とよく言われる。

モノ創りは得意だがコト創りが下手なため、結果思うように売れず、モノ創り自体も停滞してしまう。この状況を、何とか変えられないか?そう思ったのが、このブログを運営している理由だ。

k_birdは、ブランディングを以下のように定義している。

ブランディングとは何か?

  • ブランドとは「独自の役割」を持ち「生活者の感情移入」が伴ったモノやサービス。
  • ブランディングとは「できるだけ多くの人に」「できるだけ強い」独自の役割と感情移入を形創っていく取り組みを指す。
  • その成果は「衝動買い頼み」を越えた「指名買い」によるロングセラーブランドだ。
 

「ブランディング」は、始めは単なる「製品」にすぎなかったものを、生活者からの感情移入をもたらし、愛される「ブランド」に変えていく取り組みだ。そして、生活者から愛されるブランドを生み出した企業の従業員は、そんな自社や、自分達に対して誇りを持てるようになる。

ビジネス的に言えば、ブランディングに成功した商品はロングセラーとなり、安定的なキャッシュフローを生み出す。安定的なキャッシュフローは、投資家や借入金融機関にも満足をもたらし、加重平均資本コストを下げる。

k_birdはこれまで、時に外資系コンサルティングファームのコンサルタントとして、時に広告代理店の戦略プランナーとして、様々なビジネスコンセプトに触れてきた。

それらの中でも「ブランディング」はビジネスと社会をつなぎ、多くのステークホルダーの間にWin-Winを生み出す優れた考え方だと確信している。そしてそれはすなわち、私たちが暮らしている社会にWinを広げていくこととイコールだ。

これが、k_birdがブランディングという考え方にコミットする理由であり、このブログ「Mission Driven Brand」を綴ってきた理由だ。

いつかそう遠くない未来、日本企業もぞくぞくと「ブランド」を生み出せるようになる。そしてそれらのブランドが世の中の支持を得て、人々にとってかけがえのない存在となり、社会や個人をより良い方向に変えていく…。

イノベーションは、何もテクノロジーだけの専売特許ではない。ブランディングもまた、社会や人を大きく変えていくイノベーションになりえるはずだ。

その他のブランディング関連記事とおすすめ本について

もしあなたがこの解説記事以外にもブランディングやマーケティングに関心があるのであれば、リンクを張っておくのでぜひ必要な記事を探していただきたい。

また、下記の記事ではより深くブランディングやマーケティングを学びたい方におすすめ書籍を紹介している。ぜひご覧いただければ幸いだ。

ブランディング・マーケティング関連のおすすめ本紹介

ビジネススキル・マネジメント関連のおすすめ本紹介

終わりに

今回で「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」である「ブランディングの解体新書」はいったん幕を閉じることになる。

しかしブランディングは、単に「意味」や「知識」が理解できたからといって、成功するとは限らない。優れたブランディングを実践するには、知識とは別の「頭の使い方」が必要となる。「右脳」と「左脳」を駆使した「頭の使い方」だ。

今後、このブログでは「あなたをブランドにする思考法」と題して、ブランディングを成果に結びつけるための「頭の使い方」を解説していくつもりだ。

しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。

それでも、このブログに主旨に共感し、何かしらのヒントを得たいと思ってもらえるなら、ぜひこのブログに読者登録Twitterfacebook登録をしてほしい。

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