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価格戦略とは|プライシングの種類と価格マネジメントの方法|事例有

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この記事をご覧になっているあなたなら、何らかの理由で「価格戦略」や「プライシング」あるいは「価格マネジメント」に関心をお持ちのことだろう。

価格戦略はマーケティングにとって極めて重要な要素であることに、あなたも異論がないはずだ。高すぎる価格設定をすれば商品は売れなくなり、低すぎる価格設定をすれば、商品は売れるかもしれないが利益が得られなくなる。

このように、極めて重要な「価格」だが、インターネット上の記事では「コスト・プラス型価格設定」や「心理的価格設定」など「価格設定手法」を中心に解説されることが多い。しかし「プライシング」は価格を検討する上での「手法の一つ」でしかない。

このブログの筆者であるk_birdは「価格」を以下の3つの視点で捉えるようにしている。

  • 価格戦略の視点:市場競争に打ち勝つための価格面での戦略手法
  • プライシングの視点:具体的に価格を設定するための価格設定手法
  • 価格マネジメントの視点:市場価格を一定に保つための価格管理手法

もし、この解説を最後までお読みになれば、あなたは単に「プライシング」だけでなく「市場競争に打ち勝つための価格戦略手法」や「値下げ圧力に打ち勝つための価格マネジメント手法」に関しても、有用なヒントが得られるはずだ。

ぜひ、最後までお付き合い願いたい。

 

価格戦略とは:価格戦略の種類と事例

あなたの商品にはライバルが存在する。そのライバルに対して価格面でどう戦っていくのか?を考えるのが価格戦略の視点だ。

価格戦略は大きく分けて6つの考え方が存在する。以下、簡単に解説していこう。

価格戦略-1:市場浸透価格戦略(ペネトレーションプライス戦略)と事例

まずは「市場浸透価格戦略(ペネトレーションプライス戦略)」について解説しよう。

市場浸透価格戦略とは、商品を早期に市場に浸透させることを目的に、価格を「製造原価と同じ」か、あるいは「製造原価以下」に設定する価格戦略を指す。

市場浸透価格戦略を採用した企業は、必然的に「低価格戦略」へと突き進むことになる。すると競合ブランドは思い切った低価格についてこれなくなるため、結果として早期に大きなシェアを実現できる。

しかし鋭いあなたならご想像通り、この「市場浸透価格戦略」には、いくつかの前提条件が揃っている必要がある。

市場浸透価格戦略に必要な前提条件-1:販売数量が増えるにつれ製造原価が下がる

1つ目の前提条件は「販売数量が増えるにつれて製造原価が下がる」見込みが立つかどうかだ。

例えば以下のような前提条件が揃う場合、市場浸透価格戦略は有効となる。

  • 大量販売&大量仕入れによって原材料費の単価が劇的に下がる
  • 大量生産による工員の習熟効果によって、商品1個当たりの労務費が劇的に下がる
  • 工場の稼働率が飛躍的に上がり、商品1個当たりの間接費(減価償却費など)が劇的に下がる
市場浸透価格戦略に必要な前提条件-2:利益が出るまで原価割れに耐えうるだけの企業体力かある

2つ目の前提条件は「利益が出るまで原価割れに耐えうるだけの企業体力かあるかどうか」だ。

市場浸透価格戦略とは、発売当初は競合他社が追随できない原価割れの価格で大きなシェアを取り、その後は数量効果によるコスト削減分で利益を生み出す、という価格戦略だ。当初は体力を削りつつ、後から「実を取る」戦略であるため「体力を削る」期間の我慢を必要とする戦略だ。

市場浸透価格戦略に必要な前提条件-3:変動費率が低い

3つ目の前提条件は、変動費率が低いかどうかだ。

例えばITソフトウェアはそれなりに開発費はかかるものの、いったんソフトウェアが完成してしまえば「データのコピー」で済むため変動費率は低い。そのため、利用者が何人に増えようが大きな製造原価がかからないため「まずは普及させて」「後から有料課金を促す」という価格戦略が可能になる。フリーミアム戦略などが典型だ。

価格戦略-2:上澄み吸収価格戦略(スキミングプライス戦略)と事例

続いて「上澄み吸収価格戦略(スキミングプライス戦略)」について解説しよう。

上澄み吸収価格戦略とは、市場浸透価格戦略とは反対に、最初から利益を上げることを目的とした価格戦略だ。当初は比較的高い価格をつけて、初期の段階で開発費や設備投資を回収するやり方だ。必然的に高価格戦略となる。

もし仮に競合ブランドが低価格で参入してきた場合には、その段階で価格を引き下げることで対抗する。この戦略がうまくいけば初期段階で開発費や設備投資費を回収しているので、値下げをしてもある程度の利益が出ることになる。

多くの企業はこちらの価格戦略を採用することが多い。

価格戦略-3:プライスカスタマイゼーション価格戦略と事例

プライスカスタマイゼーション戦略とは利益の最大化を目的に、商品が販売される場所や時間に応じて価格設定を細かく変える戦略を指す。例えば、あなたはスキー場や山の山頂などに行くと、通常より高く価格設定された自動販売機に出くわしたことがあるはずだ。

プライスカスタマイゼーション戦略は、販売する場所や時間の需給バランスに応じて価格を変えることで、利益を最大化することが可能になる。

過去にマクドナルドは都心や郊外など店舗の立地によって全国を9つに分け、戦略的に価格設定を分けていたことがある。

価格戦略-4:レーザーブレード型価格戦略と事例

レーザーブレード型価格戦略とは、最初に購入される商品を安価で提供し、その後の消耗品や保守サービスで継続的に稼ぐ価格戦略を指す。

鋭いあなたならお気づきの通り、この「レーザーブレード型価格戦略」とは、替え刃カミソリを初めて商品化したアメリカのジレット社が、カミソリ本体は安価で提供し、替え刃のリピート購入で利益をあげるビジネスモデルを展開した事例になぞらえての名称だ。

レーザーブレード型価格戦略の場合、まずは赤字覚悟で本体価格をディスカウントして幅広く購入を促進する。一方で消耗品に関しては十分に利益のとれる価格設定を行うことで、本体赤字を回収し利益化していくのが目的だ。そしてこの究極形ともいえるのが、本体価格をゼロにする「フリーミアム戦略」だ。

顧客は最初に本体を購入してしまった以上、多少高くても専用の消耗品を買わざるを得なくなる。こうして、メーカーは製品本体のディスカウントされた価格分以上の利益を、消耗品によって獲得することが可能となる。

また、ディスカウント価格でいち早く本体を普及させることで、競合する商品を排除する効果も期待できる。

価格戦略-5:サブスクリプション型価格戦略と事例

「サブスクリプション型価格戦略」とは、提供する商品やサービスの「数量」ではなく「利用期間」に対して対価を獲得する戦略を指す。

その典型事例がカーシェアリングだ。

通常、自動車の購入には数百万円単位の出費が伴う。しかしカーシェアリングは「車を他人とシェアする」ことと「利用時間に応じた価格設定をする」という2つのアイデアによって「車を買えない(あるいは買わない)」生活者にすそ野を広げ、市場を拡大させている。

一般に「購入」より「利用」のほうが価格の絶対額を下げることができる。よって「サブスクリプション型価格戦略」を採用すれば、新規顧客獲得のハードルを下げることができる。

価格戦略-6:プリペイド型価格戦略と事例

「プリペイド型価格戦略」とは、支払いタイミングを前払いすることで、様々な戦略上のメリットを享受する価格戦略を指す。

プリペイド型価格戦略のメリットとは、大きくわけて2点ある。

1つ目は、プリペイド型価格戦略を採用することで「モノを提供するタイミング」と「支払いのタイミング」を切り離すことが可能となる点だ。このため、ギフト需要やプレゼント需要を生み出すことが可能となる。iTunes CardやGoogle Playギフトカード、あるいはスターバックスカードなどが典型事例だ。

2つ目は、プリペイド型価格戦略を採用することで、顧客の早期囲い込みが可能になる点だ。

上記の例でいえば、いったんiTunes CardやGoogle Playギフトカード、あるいはスターバックスカードを購入した顧客は、必然的にそれらに対応した商品やサービスしか購入できなくなる。つまり「プリペイド型価格戦略」がうまく機能すれば、競合商品・サービスに対するブランドスイッチリスクを低減させることが可能になる。

プライシング(価格設定)とは:4つのプライシングの種類

続いては、具体的なプライシング手法の解説に移ろう。

プライシングとは、価格設定のことを指す。そして当たり前のことだが、コストよりも商品価格が上回らなければ利益はでない。一方で、生活者の心理的な相場価格より商品価格が高ければ、商品は売れない。

この2つをうまく両立させるには、あなたは「商品に関わるコスト」と「生活者の価格相場観」の両方を把握しておかなければならない。

プライシングのポイントは、これ以上では誰も買ってくれないという価格と、これ以下では利益がでないという価格のレンジを見極めることだ。

プライシング(価格設定)の手法-1:コスト志向型価格設定(コストプラス・プライシング)

コスト志向型価格設定とは、まずは「コスト」を算出し、コストに「利益」を乗せた金額を「価格」として設定するプライシング手法を指す。

このプライシング手法のメリットは、商品が売れさえすれば一定の利益は確保することが可能な点だ。一方でこのプライシング手法は、あくまでも「コスト」という「自社都合」で価格を決めているため、生活者がこの価格で受け入れられるどうかは未知数となる。

よって受注生産品や公益性・独占性の高いサービス産業に適している価格決定法といえるだろう。

プライシング(価格設定)の手法-2:需要志向型価格設定

需要志向型価格設定とは、ターゲットが「どの程度の価格を支払ってくれそうか?」によって販売価格を決めるプライシング手法を指す。

上記の「コスト志向型価格設定」は、あくまでも「コスト」という「自社都合」であるのが難点だ。それをカバーするためには「生活者が感じている相場価格」を念頭に置く必要があるが、その手法としてよく使われるのがPSM分析だ。

PSMとは「Price Sensitivity Measurement」の頭文字をとったもので、日本語に訳すと「価格感度測定」となる。生活者へのアンケート調査を通して「価格の相場観」を把握し分析する手法だ。アンケート調査の4つの項目で「生活者の価格相場」を把握することが多い。

  • 高すぎてとても手が出ないと思う(思い始める)価格
  • ちょっと高い(高いと感じ始める)と思う価格
  • ちょっと安い(安いと感じ始める)と思う価格
  • 安すぎて品質を不安に思う(思い始める)価格

これらの調査を行うと、例えば以下のようなことがわかる。

  • 商品価格を100円にした場合、生活者の何%が「高すぎて手がでない」と思うか
  • 商品価格を100円にした場合、生活者の何%が「ちょっと高い」と思うか
  • 商品価格を100円にした場合、生活者の何%が「ちょっと安い」と思うか
  • 商品価格を100円にした場合、生活者の何%が「安すぎて品質が不安」と思うか

さらにPSM分析の良いところは「価格感度」の名の通り「100円なら」「110円なら」「120円なら」などの価格設定に応じて柔軟に上記の割合を把握できる点だ。さらに「上限価格の相場観」や「下限価格の相場観」などを見極めることで、設定する価格帯を絞り込んでいくことも可能だ。

プライシング(価格設定)の手法-3:競争志向型価格設定

競争志向型価格設定とは、競合ブランドとの競争を意識したプライシング手法のことを指す。

一般的には、競合ブランドが設定している価格と同等程度か、それよりも安い価格を設定することが多い。すでにプライスリーダーとしてのリーディングブランドが存在し、そのフォロワーとして市場に参入していく際には、有効なプライシング手法となる。

プライシング(価格設定)の手法-4:心理的価格設定

心理的価格設定とは、生活者の心理的な側面を重視したプライシング手法のことを指す。

近年、行動経済学の発展が著しいが、この「心理的価格設定」は「人は、必ずしも合理性だけで価格と価値を判断しない」ことを背景とした考え方だ。

以下、4つの心理的価格設定手法を簡単に解説しよう。

名声価格

あなたは「1,000円のリンゴ」と聞いて、どんな連想を思い浮かべるだろうか?恐らくは「高いけど、手間暇かけて作られた、おいしいリンゴに違いない」と感じるのではないだろうか?

価格には「価値を得るための対価」としての役割のほかに「価値を期待させる」効果がある。これをマーケティングの専門用語で「名声価格」あるいは「価格シグナル」と呼ぶ。

強いブランドには「価格の好循環」が作用する。ブランド力が強化されると、高い価格でも購入したいという生活者が増えるので「プレミアム価格」をつけることができる。

そして「プレミアム価格」をつけることができれば、先ほどの「1,000円のリンゴ」のように「高かろう、良かろう」の心理メカニズムが作用するため、生活者が「知覚する品質」は高くなる。

段階価格

「段階価格」とは、いわば価格を「松・竹・梅」に分ける考え方だ。行動経済学によると、人は「松・竹・梅」で価格を分けられると「極端の回避性」と呼ばれる心理が働き、無難に「竹」を選んでしまうことが知られている。

それを証明したのが、オリジン弁当の事例だ。

オリジン弁当は、過去に幕の内弁当を「450円」「490円」「690円」の3つの価格レンジに増やしたことがある。その結果「490円の上幕の内弁当」が一番売れ、幕の内弁当全体の売上は前年同月に比べ78%増になったといわれる。

慣習価格

価格戦略の世界には「価格弾力性」という言葉がある。

一般に、価格は高ければ高いほど売り上げ数量は落ち、価格が安ければ安いほど売上数量は伸びる傾向にある。そしてこの「価格の高低」と「売上数量の多少」との「関係の強さ」のことを「価格弾力性」という。

そして「慣習価格」は「価格弾力性」がほとんどない状態のことを指す。

例えば自動販売機で売られている飲料やタバコは、生活者から見た価格相場がほぼ固定しており、多少価格を下げたとしても売上数量は思うほど伸びない。

このような「慣習価格」を伴った商材の場合は、生活者の「価格相場」に従ったプライシングを行うのが賢明な判断となる。

均一価格

均一価格とは100円ショップなどのように、価格を均一にするプライシング手法を指す。

特に「価格のバリエーションが多い業界」や「価格の組み合わせが複雑な業界」では、均一価格を採用することで価格が明瞭になり、需要を喚起できる場合がある。

例えば紳士服業界における「ツープライスストア」や、眼鏡業界における「スリープライスストア」などが典型だ。

価格マネジメントとは:値下げ圧力に負けない価格マネジメントの方法

あなたがマーケティング担当者なら、ブランディングやマーケティングの過程で「値下げ圧力」にさらされたことは、一度や二度ではないはずだ。

多くのマーケティング担当者は、こと価格になると弱気になり、つい競合ブランドより低く設定してしまいがちだ。

さらには、営業部門や上層部から「デフレの時代だから、価格を下げて欲しい」「競合ブランドが○○円まで値下げしてきた以上、当社も価格も同等がそれ以下にするしかない」などの圧力がかかり、値崩れリスクにおびえながらも値引き判断に傾いたマーケティング担当者も多いはずだ。

特に日本の企業においては伝統的に営業部門の発言権が大きいことから「売上目標達成のためなら、多少値下げをしても構わない」という風潮が蔓延る。結果、値引き決定のプロセスに冷静なロジックを欠いたまま、非常に受け身的な価格マネジメントに陥っているのが現状だ。

しかし、ことブランディングにおいて「値引き」は致命傷になりうる。

なぜなら値崩れは、ブランド力の低下に直結する。さらに、値引きをしてなお利益を確保するためには、費用のどこか、たとえば人件費などを削らなくてはならず、会社全体にとってあまり有益な方向に向かわないことが多いからだ。

もし、あなたの企業がこのまま価格戦略に対してロジックのないマネジメントを続けていけば、適正な利益が得られないまま価格下落が進んでいき、その恐怖感に苛まれながらも、ただ手をこまねいているだけになってしまう。

残念ながら「値下げ圧力」に対してすぐに効く特効薬は存在しない。しかしそうであるからこそ、事前の準備を含め、日々の地道な努力が必要だ。

広く世の中を見渡すと、競合ブランドを明らかに上回る価値を持ったブランドは、競合ブランドの価格に引きずられることなく、独自の価格帯を維持している。

よって、ここからは「値下げ圧力」や「価格マネジメント」に対して、どのような視点を持てば良いかについて解説しよう。

多くの企業の「価格マネジメント」の落とし穴

現状、多くのブランドの価格マネジメントは、 感覚的あるいは情緒的なものに大きく影響されているのが実情だ。よく見られる現象は、大きく以下の3つに大別される。

  • 競合ブランドが値下げをしてきた以上、販売量が落ちるのは目に見えている。追随値下げは不可避だ。
  • 今後のバイヤーとの付き合いの関係上、理不尽とはわかっていてもリベートを積み増さなくてはならない。
  • 当初計画していたよりも販売が芳しくない。値下げをすれば今よりも売れるようになるだろう。

特に市場が成熟期になると、上記のどれかが理由になって、値下げ圧力に晒されることが増えてくるはずだ。

実際、あるコンサルティング会社のグローバルな調査では「過度の価格競争に直面している」と感じている日本企業は84%にも昇るという。

そうであるにも関わらず「より高い収益を得るために重要なことは何か?」という問いに対して、91%の日本企業が「売上の増加」と答えており「価格マネジメントによる利益を最も重視している」と回答した企業はわずか33%に留まるという。

この調査結果から見ても、日本企業は売上至上主義であり、価格マネジメントによる利益向上の意識が薄いことが垣間見える。

ちなみに「価格マネジメントによる利益を最も重視している:33%」は、調査対象国の中で、日本が最も低い数値だそうだ。

しかし、値下げによる売上向上は、瞬発的な効果にとどまることになる。なぜなら生活者側からすれば、 低価格は一時的に買うための動機付けにはなりうるが、その刺激に慣れて「値下げ価格」が当たり前感覚になってしまうと「値下げ価格」が標準的な相場感となってしまい、もっと買いたいという動機づけにつながりにくくなるからだ。

にも関わらず、あなたのブランドも含め、多くのブランドが値下げ初力に屈してしまうのはなぜだろうか?

価格マネジメントに影響を与えている3つの要因

実は、価格マネジメントに影響を与える要因は、大きくわけて3つ存在する。その3つとは、以下の通りだ。

  • 市場の需給要因:

野菜価格やガソリン価格、あるいは電気料金のように、市場の需給関係や政府の方針などによって左右される要因

  • 戦略要因:

自社のブランド力・競合のブランド力・チャネルや顧客の力関係など、ブランド戦略やマーケティング戦略の巧拙に左右される要因。

  • 取引要因:

営業担当者とバイヤーとの交渉のような、戦術的な要素に左右される要因。

価格マネジメントに影響を与えている要因

価格マネジメントに影響を与えている要因-1:市場の需給要因

上記のうち「市場の需給要因」は、残念ながらあなたや、あなたの企業がどれだけ努力をしたとしても太刀打ちできない要因だ。

よって、市場の需給要因によって価格が大きく左右されてしまう場合は「需要予測」に着目し、需要変動に対して俊敏に生産調整を行うことで価格マネジメントを行うのが賢明だ。

なぜなら需要動向に応じて俊敏に生産調整ができれば、価格は必然的に安定し、値崩れを防ぐことにつながるからだ。

一方で「戦略要因」に関しては、日本企業にとって根深い問題であり、あなたを含め、多くのマーケティング担当者が頭を痛めている問題だ。

価格マネジメントに影響を与えている要因-2:戦略要因

ことブランディングやマーケティングにおいて、日本企業の大きな問題は「CMO不在」だといわれる。

本来、価格戦略はマーケティングミックスの4Pの1つであり、CMOが戦略レベルの見地から意志決定すべき戦略課題だ。

しかしながら経済産業省のレポートによれば、マーケティングやブランディングを統括するCMOを配置している企業は、米国が62%であるのに比べて、日本はわずか0.3%と極端に低いことがわかる。

日本のマーケティング部門は「マーケティング部門」と言いつつも、実は「宣伝や販促だけ」だったり、あるいは「営業本部傘下の一部門」であることも多い。その結果、営業部門長の「得意先のチェーン本部から、何かやらないのかと言われ困っている」「何もしないで、このままの状態を黙認するのは良くない」などの言葉に引きずられて、安易な値下げに引きづられがちだ。

一方で、外資系企業にはCMOを置いたりブランドマネージャー制を敷いている企業が多く、価格マネジメントポリシーが一元管理されていることが多い。

しかし、日本は雇用の流動性がまだまだ低いため、ブランドマーケティングプロフェッショナルは外資系企業を渡り歩くこと多く、価格マネジメントも含めたブランドマネジメントのノウハウが日本企業に流通しない。

上記のようなことが相まって「全体を俯瞰して戦略的に価格をマネージする」という責任部署が存在しない状態となり、どの部門も価格維持の責任を担わないまま、場当たり的な価格マネジメントとなってしまいがちだ。

価格マネジメントに影響を与えている要因-3:取引要因

最後は「取引要因」だ。k_birdのコンサルティングファームでのコンサルティング経験及び広告代理店での戦略プランナー経験を踏まえると、多くの企業の価格戦マネジメントの8割は、この取引要因で失敗しているというのが実感だ。

あなたの企業では、営業部門は「売上」で評価されていないだろうか?

日本企業の場合、営業部門の評価制度が「売上」中心である企業が圧倒的に多い。そのため、営業現場は値引きやリベートを乱発してでも売上を上げようとするインセンティブが働く。

リベートには、例えて言えば「年間契約達成リベート」「期間リベート」「特別リベート」「運送料」「配送センター費用」「棚を確保する費用」「POSデータ入力手数料」「共同広告協賛金」などが存在する。

そしてk_birdの経験の中では、その企業の主力商品にも関わらず、すべてのリベートを足し合わせると、実に売り上げの5割以上がリベートに費やされていたというクライアントにも遭遇したことがある。

また情報システム上、1SKUごとに正確な貢献利益の計算ができていなかったり、できていても営業部門に知らせていない企業でも同じことが起きている。

どの企業も、リベートポリシーは策定しているはずだ。

しかしそこには「本社決裁分」「支店長特別決裁」など例外的なリベートが存在し「裏技を使ってリベート決裁を認めさせた営業担当者こそ優秀」とする文化すら存在する。

ブランディングの目的は、生活者からの感情移入を創ることだ。そして感情移入を創ることによって指名買いされるブランドへと育て、生活者にもたらした喜びの対価にふさわしい利益を得て初めて成功といえる。

しかし、営業担当者と取引先バイヤーとの取引現場で値引きやリベートが乱発され、値崩れや安売りイメージが蔓延すれば、いったい何のためのブランディングだかわからなくなる。マーケティング担当者であるあなたの努力は、営業現場の最前線で無駄になってしまうのだ。

 

価格マネジメントにおけるマーケティング担当者のチャレンジ

ここまでで、安易な値引きの要因は「CMO不在(価格に対する責任部門の不在)」「営業部門の売上至上主義」であることはご理解いただけたはずだ。

しかし冒頭でも触れた通り、残念ながら「値下げ圧力」に対してすぐに効く特効薬は存在しない。だとしても、ブランディングを成功に導きたいと真剣に考えているあなたなら、できることがあるはずだ。

同じ企業内でも、ブランディングや価格マネジメントに関する知識が豊富で、全体像を理解している人とそうでない人では、そもそもの立脚点が異なるため会話がかみ合わなくなることが多い。特に「売上」と「利益」に関して、どちらを重視すべきかについてズレが生じると、全く話がかみ合わなくなる。

よって、まずは価格マネジメントにおける以下の3つの知識について、社内勉強会などを通して知識共有にチャレンジしてみてほしい。知識を共有するだけでも、価格や値引きに対する立脚点を揃えることができるため、以降、ロジカルで建設的な議論が可能になるはずだ。

価格マネジメントのチャレンジ-1:「スキミングプライス」に関する知識を共有する

「スキミングプライス」とは、冒頭で解説した通り「上澄み吸収価格」のことを指す。いわば「価格を高く設定・維持し、高い粗利を得ることを狙いとした価格戦略」のことだ。

あなたがモノを売ろうとするとき、つい「なるべく多くの人に売りたい」と考えるのは人としての心情だ。しかし「なるべく多くの人に売る」ことと「なるべく多くの利益を上げる」ことは、必ずしも一致しないことは、これまでに解説した通りだ。

思い出してほしい。

さきほどに触れた「すべてのリベートを足し合わせると、実に売り上げの5割以上がリベートに費やされていたというクライアントにも遭遇した」というくだりは「売上至上主義が利益減を招く」という悲しい現実の典型例だ。

「スキミングプライス戦略」は「価格が少々高くても、あまり価格に気にすることなく欲しいと思ってくれる上位20%を大切にする」戦略だ。

値下げによって買ってくれる人達は「安いかどうかを基準に買う」いわゆる「バーゲンハンター」と呼ばれる人達となりやすい。この「バーゲンハンター」は「安さ」が重要な購入基準になっているため、値下げした時こそ買ってくれるものの、正価に戻すと途端に離れていく、決してロイヤル顧客にならない人達だ。

そして値下げの本当の恐ろしさは、上位20%の既存のロイヤル顧客に悪影響を与えてしまうことだ。

もしあなたのブランドが値引きを乱発すれば、ロイヤル顧客も正価で買うのが馬鹿らしくなる。そのため「ロイヤル顧客ですら」徐々に正価で買わなくなってくる。つまり「ロイヤル顧客のバーゲンハンター化」が加速していくのだ。

こうして「値引き」は「バーゲンハンター」を呼び込み、更には「ロイヤル顧客のバーゲンハンター化」を促しながら「売上至上主義が利益減を招く」悪夢を創っていく。

その原因となる顧客をあえて避け「粗利幅」で勝負するのがスキミングプライス戦略であり、ブランド戦略の真骨頂だ。

価格マネジメントのチャレンジ-2:「価格の利益インパクト」に関する知識を共有する

続いては「価格の利益インパクト」に関する知識の共有だ。

今ここに、正価100円の商品があったとしよう。原価や諸費用が50円だとした場合、貢献利益は50円となる。

一方で、100円のこの商品を80円に値引きしたとする。原価や諸費用が同じ50円だとした場合、貢献利益は30円となる。

もし、正価と同等の貢献利益を確保しようとする場合、どの程度の売上増が必要だろうか?

答えは1.7倍だ。(50円÷30円=1.7倍)

あなたは同じ貢献利益を得ようと思ったら1.7倍の売り上げを上げなければいけないことになるが、果たしてこれは現実的だろうか?

価格マネジメントの利益インパクト-1

次に、逆のケースを考えてみよう。

値引き販売が常態化していた80円の商品があったとしよう。原価や諸費用が50円だとした場合、貢献利益は30円となる。

もし、この値引きが常態化した商品を正価である100円に引き上げた場合、原価や諸費用が50円だとすると、貢献利益は50円となる。

80円から正価の100円に価格を戻した場合、同じ利益額を得るためには、どの程度売上の減少が許容できるだろうか?

答えは60%だ。(30円÷50円=60%)

価格マネジメントの利益インパクト-2

ここまで読んでみて、いかに価格が利益にインパクトを与えるか、ご理解頂けたはずだ。

ペンシルバニア大学ウォートンスクールの研究によると、営業利益に対するインパクトの順番は「価格:10.3%」「変動費の削減:6.5%」「販売量の増加:3.3%」「固定費の削減:2.5%」となり、販売量と比べて価格のインパクトは3約倍大きいことが証明されている。

価格マネジメントの利益インパクト-3

また、マッキンゼーの調査でも 「価格:23.2%」「変動費の削減:16.3%」「販売量の増加:6.9%」「固定費の削減:5.9%」となっており、やはり販売量と比べて価格のインパクトが約3倍大きいことが証明されている。

価格マネジメントの利益インパクト-4

営業部門や企業の上層部は、ともすれば短絡的に「売上の増加」だけに目を向けやすい。しかし繰り返すが、ビジネスにおいて最も重要なのは売上ではなく利益であり、行き過ぎた売上至上主義は利益減を招く。

さらに、こと「ブランディング」においては、売上至上主義による値下げはバーゲンハンターを呼び込んでしまうために、上位20%の既存のロイヤル顧客に悪影響を与え、ブランド力そのものを棄損してしまう。

もし、あなたが真剣にブランディングを成功に導きたいと考えているのなら、ぜひ「価格の利益インパクト」について、チーム全体で共有してほしい。

価格マネジメントのチャレンジ-3:「価格シグナル」に関する知識を共有する

 3つ目は「価格シグナル」についてだ。

価格シグナルとは「設定した価格そのものが、その商品の品質を推し量るシグナルになる」とするマーケティング心理学の理論だ。

生活者は、ブランドの値段が極端に安いと「粗悪品だから安いのかもしれない」と勘ぐる。決して「厳しいコスト削減を経て安くなっている」とは考えない。いわゆる「安かろう、悪かろう」の状態だ。

例えば、風邪薬を思い浮かべてみよう。

もしあなたがドラッグストアに訪れた時、風邪薬が30円特価で販売されていたとしたら、あなたはどう感じるだろうか?多くの人はその価格を見て「30円の風邪薬なんて、聞くわけがない」と感じるのではないだろうか?

また、あなたは50円のリンゴと1,000円のリンゴでは、どちらの方が「おいしそうなリンゴだ」と感じるだろうか?恐らくあなたは、直感的に1,000円のリンゴの方が「おいしそうだ」と感じるはずだ。

これが「価格シグナル」の効果だ。

過度な値引きは、「このブランドは、競合ブランドと比べて価値が低いブランドです」という間違ったシグナルを発することになる。

値引きによる価格シグナルは、一時買うための動機付けにはなりうる。しかしその刺激に慣れて当たり前になると、もっと買いたいというインセンティブにつながりにくくなるため、売上はバーゲンハンター頼みとなる。その結果、値引き販売が常態化し、徐々にロイヤル顧客も離れていき、売り上げのベースが下がっていく。

特にプレミアム性を売りにしているブランドの場合、値引きをするとかえって売れなくなることが知られている。もし、あなたがブランドの帝京価値(=ブランドが提供できる喜び)を守りたいと思うなら、ぜひ、価格シグナルの理論もチームで共有してほしい。

その他の解説記事とおすすめ書籍

もしあなたが本解説以外にも関心があるのであれば、リンクを張っておくのでぜひ必要な記事を探していただきたい。

また、下記の記事ではより深くブランディングやマーケティングを学びたい方におすすめ書籍を紹介している。ぜひご覧いただければ幸いだ。

ブランディング・マーケティング関連のおすすめ書籍紹介

マネジメント・問題解決関連のおすすめ書籍紹介

終わりに

今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。 

しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。

それでも、このブログに主旨に共感し、何かしらのヒントを得たいと思ってもらえるなら、ぜひこのブログに読者登録Twitterfacebook登録をしてほしい。

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