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ブランディングの戦略家が【ブランド戦略の全て】を解説するブログ

ブランドポートフォリオ|ブランド体系とポートフォリオ戦略を解説|事例有

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ブランドポートフォリオやブランド体系に興味があるあなたなら、何らかの理由で商品間あるいはサービス間のシナジーに思い巡らせていることだろう。

高度経済成長期のように商品・サービスが右肩上がりに成長し商品のライフサイクルが長ければ、様々な商品・サービスのラインナップを広げるメリットはあまりない。なぜなら限られた資源の中で無理な多角化を進めれば、1つ1つの商品のスケールが失われてしまうリスクを伴うからだ。

しかし、市場が成熟してくると生活者の価値観は多様化し、移ろいやすくなる。商品やサービスを取り巻く環境が急速に変化する状況では、逆に単一の商品しか持たないことがリスクに変わる。

あなたの企業を含め、多くの企業は生活者の嗜好の移り変わりを念頭に置きながら、新たな商品・サービスを開発する必要に迫られているはずだ。しかし一方で整合性やシナジーが考慮されていない商品の乱発は、いたずらに経営資源を浪費するだけだ。

商品やサービスが増えてくれば、それらは適切に管理されなければならない。その際に有用となるのが「ブランド体系戦略」及び「ブランドポートフォリオ戦略」という考え方だ。「ブランド体系」や「ブランドポートフォリオ」を正しく理解しておけば、単なる単一ブランドの管理にとどまらず、ブランド間のシナジーを発揮することが可能になる。

今回は、ブランドマネジメントの基本といってもよい「ブランド体系」及び「ブランドポートフォリオ」について解説する。ぜひ、あなたの企業のブランドマネジメントの一助になれば幸いだ。

 

ブランド体系とは?アイドルグループの事例

ブランド体系戦略とは?アイドルグループの事例

突然の質問で恐縮だが、あなたはアイドルグループの「嵐」を見て、どのような感想を抱くだろうか?

「ブランド体系的」に位置付ければ、アイドルグループである「嵐」は「企業ブランド」に当たる。今や国民的と称される強い「企業ブランド」だ。

一方で「松潤」「大野くん」「二宮くん」「桜井くん」「相葉くん」などの構成メンバーは、ブランド体系的には「商品ブランド」に当たるだろう。どの構成メンバー(=商品ブランド)も、今やゴールデンタイムのドラマで主役を張れる「強い商品ブランド」だ。

一方で、日本を代表する女性アイドルグループである「AKBグループ」はどうだろうか?

こちらも「ブランド体系的」に位置付けてみると「AKBグループ」は「グループ企業ブランド」に当たる。企業の事例で言えば「MUFG」や「7&Iグループ」などが相当するだろう。そしてその配下に「AKB48」「乃木坂46」「欅坂46」という「企業ブランド」が存在し、さらにその下層に各構成メンバーという「商品ブランド」が存在している。

しかしAKBグループの場合、嵐と比べて「商品ブランド(=各構成メンバー)」のブランド力は決して強くない。その結果「卒業したら(企業ブランドの傘からはずれたら)輝きを失い、普通の人になる」という現象が起きてしまう。

「嵐」と「AKBグループ」の違いは、ブランド体系及びブランドポートフォリオマネジメントの違いで説明できる。

嵐の場合、企業ブランドである「嵐」がグループとして活躍すればするほど各構成メンバー(=商品ブランド)の定評は高まり、逆に各構成メンバー(=商品ブランド)がドラマ等で活躍すればするほど、グループとしての「嵐(=企業ブランド)」の評価が高まるという好循環を創っている。恐らく嵐の各メンバーは企業ブランドの傘が外れたとしても、解散した元SMAPのメンバーのように、それなりの活躍をするのだろう。

一方で「AKBグループ」の場合、グループ企業ブランド(=AKBグループ)や企業ブランド(=AKB48/乃木坂46/欅坂46など)は強いものの、その強みを商品ブランド(=各個別メンバー)に活かしきれていない。そのため「卒業=失速」という現象が起こるのだ。

 

ブランド体系の意味と事例

ブランド体系を象徴する写真

ブランド体系とは、ある企業が複数のブランドを持つ場合、各ブランドの役割と関係性を整理し構造化することを指す。別名「ブランドアーキテクチャー」とも呼ばれる。その目的は、自社ブランド同士のカニバリ(=食い合い)を防ぎながら「複数ブランド間のシナジー」が発揮できるように、各ブランドを体系立てて整理することだ。

適切なブランド体系を構築できれば、単一ブランド単体の時よりも強く「ブランドアイデンティティ」を訴求することが可能になる。

また、それぞれのブランドの役割を体系的に位置づけることで、今後最も注力すべきブランドは何かを見極め、ブランド構築の資源配分を最適化することができる。

さらには、企業全体のブランド体系を俯瞰して、モレの有無や新ブランドの可能性を検証し、現在の強みを生かした有望な市場を発見することも可能になる。

しかし、こと「ブランド体系」となると「企業ブランド」「事業ブランド」「商品ブランド」あるいは「マスターブランド」「個別ブランド」「サブブランド」など「似て非なるブランド用語」が飛び出し混乱しがちだ。

しかしそれらの「ブランド用語」を理解せずに放置してしまえば「それぞれの社員が」「それぞれの用語に対して異なる解釈をしたまま」ブランド体系に関する議論が進むことになる。

しかし「そもそも使っている用語の解釈が異なる」ということは「社員それぞれが寄って立つ立脚点が異なる」ことを意味する。そして「寄って立つ立脚点」が異なれば、議論がかみ合わなくなり紛糾するのは火を見るより明らかだ。その結果、いたずらに時間を浪費し、最悪の場合だいぶ後になってから立脚点の違いが顕在化し、大きな手戻りが生じることにもなりかねない。

今回は「ブランド体系」及び「ブランドポートフォリオ」について、用語を一つ一つひも解きながら、3つのステップで紹介しよう。

  • 現在のブランド体系を整理するステップ
  • ブランド体系戦略を策定するステップ
  • ブランド体系を適切に管理するステップ

では、解説を続けよう。

 

ステップ1:ブランド体系を整理する

まずは「ブランド体系を整理する」ステップだ。

ブランド体系を整理するステップで理解しておきたいのは「グループ企業ブランド」「企業ブランド」「事業ブランド」「商品ブランド」という用語の意味と役割だ。

グループブランドとは:グループブランドの意味と事例

グループブランドとは、その名の通り「グループ企業全体を束ねたブランド」を指す。企業の事例を挙げれば「三井グループ」「三菱グループ」「7&Iグループ」「西武グループ」などが典型例だ。また、先ほどのアイドルグループの例では「AKBグループ」がこれに該当する。

グループ企業ブランドの事例

市場成熟化とシェア争いが進む中で、今後日本でも企業買収や売却は増えていくことが予想される。その際に論点となりやすいのが「買収したブランドをグループブランドの内側に入れるか?入れないか?」だ。買収した企業はすべて自社グループのブランドを冠するという方針で臨む企業もあれば、買収前のブランドのまま、独立独歩を許す方針の企業も存在する。

基本的には、コア事業かノンコア事業かでレベル分けし、コア事業の場合にはグループブランドを冠する、という対応が一般的だ。

企業ブランドとは:企業ブランドの意味と事例

企業ブランドとは「企業全体を象徴するブランド」を指す。

企業ブランドの事例を挙げれば「7&Iグループ」における「セブンイレブン」「イトーヨーカドー」「セブン銀行」などが挙げられる。また「ソニーグループ」における「ソニー」「ソニー銀行」「ソニーミュージック」なども典型例だ。また、先ほどのアイドルグループの例では「嵐」あるいは「AKB48/乃木坂46/欅坂46」が該当する。

企業ブランドの事例

企業ブランドを検討する際に大きな論点となりやすいのが「企業名とブランド名を一致させるか否か」だ。例えば企業名とブランド名が一致している典型例は「花王」「ライオン」「マイクロソフト」などとなる。

一方で企業名とブランド名が異なる典型例は「プロクターアンドギャンブル⇔P&G」「日本電気⇔NEC」「アメリカンファミリーインシュアランス⇔アフラック」などが挙げられるだろう。

企業名とブランド名が一致しない例

もし、今後急速な業容拡大を見込んでいる場合には「企業ブランドの信用・評判を子会社に活かす」場合も念頭に置き「社名から離れて、企業間で横断可能な企業グループブランド」を開発しておくことが有効となる。

ファミリーブランドとは:ファミリーブランドの意味と事例

ファミリーブランドとは「事業を象徴するブランド」を指す。ファミリーブランドは複数の商品ブランドを束ねる役割を果たすため、「カテゴリーブランド」あるいは「レンジブランド」と呼ばれることもある。

ファミリーブランドの事例を挙げれば「セブンイレブン」における「セブンプレミアム」あるいは、「SONY」における「Xperia」「BRAVIA」「Cyber-shot」「Handycam」などが該当する。また「Microsoft」における「Windows」「Office」「Surface」「Bing」などもファミリーブランドにあたるだろう。

アイドルグループの例でいえば「AKB48(=企業ブランド)」に対して「AKB48 チームA」だろうか。

企業ブランド(ファミリーブランド)の事例

ファミリーブランドは、最も高度なブランドマネジメント力が求められる。その理由は2つだ。

1つ目は、ブランド体系上の縦ラインに起因する。ファミリーブランドは「グループブランド」や「企業ブランド」が掲げる「ブランドアイデンティティ(自分達らしさ)」を体現していくという「企業側」の使命を背負う。

一方で、ファミリーブランドは移ろいやすい「生活者側」の期待に応えていかなければ収益は上がらないという事情も存在する。

この2つの側面は、いわば求心力と遠心力が同時に働く状態であり、短期的にはコンフリクトを起こすことが多い。ファミリーブランドの統括リーダーは、この不整合をひも解き、何を重視するのか?という高度な意思決定が求められることになる。

そして、ファミリーブランドが高度なマネジメントを求められる2つ目の理由は、ブランド体系上の横ラインに起因する。

ファミリーブランドは、当然ながら事業としての収益責任を負う。そして収益責任を負うことになれば、必然的に商品やサービスは多様に広がっていきがちだ。しかし商品やサービスのラインが広がれば広がるほど、自社の他の事業とのカニバリ(食い合い)を起こしやすくなる。

例えばタブレット端末の事例で言えば、一時期同じメーカーの「移動体通信事業部」と「PC事業部」が別のブランド名でタブレット端末を発売していた時期がある。流通ルートも「携帯電話ショップ」と「家電量販店」でわかれていたため生活者が混乱するという事態が生じた。

これらを解決するには「ブランドポートフォリオマネジメント」というブランドマネジメントの考え方と「ブランドポートフォリオ組織」が必要となる。それは後ほど解説しよう。

商品ブランドとは:商品ブランドの意味と事例

商品ブランドとは「企業が展開している商品やサービスを象徴するブランド」を指す。

商品ブランドの事例を挙げれば「Xperia(=事業ブランド)」における「XPERIA XZ」「XPERIA Z4 Tablet」などが挙げられる。また「Microsoft(=企業ブランド)」の場合は「Office(=事業ブランド)」における「Excel」「Word」「PowerPoint」などが挙げられるだろう。

商品ブランド(サービスブランド)の事例

これらのブランド体系を、ブランド体系図として整理すると以下の図の通りとなる。

ブランド体系図の例

 

ブランド体系の再構築に必要な視点

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冒頭でも述べたように、ブランド体系とは複数ブランドの役割と関係性を整理し、構造化することだ。そしてブランド体系を再構築する目的とは、自社ブランド同士のカニバリ(=食い合い)を防ぎながら「複数ブランド間のシナジー」が発揮できるように、各ブランドを位置付けることだ。

その際に必要となるのが、以下の2つの視点だ。

ブランド体系の「縦関係」の視点:ブランドの階層の視点

あなたがのブランドの「縦の階層」は「企業ブランドが事業・商品ブランドを強くする階層」あるいは「商品ブランドが事業・企業ブランドを強くする階層」になっているだろうか?

ブランド体系の「縦関係の視点」とは「企業ブランド」「事業ブランド」「商品ブランド」という「縦の階層」を整理し、それぞれのブランドの役割を明確化する視点を指す。

その際に押さえておきたいポイントが「企業ブランド」「事業ブランド」「商品ブランド」という階層に「ブランドアイデンティティの一貫性」があるかどうかだ。

「ブランドアイデンティティ」とは、端的に言えば「そのブランドならではの、一貫した姿勢」のことを指す。ブランドアイデンティティとは、強いブランドを形創っていく上で最も重要な考え方だ。

もし、あなたの企業が強いブランドアイデンティティを築くことができれば、初めは「良い-悪い」の理性でしか評価されなかったブランドが、やがて「好き-嫌い」という感性レベルでロイヤリティを築けるようになる。そしてやがては「信じる-信じない」という価値観レベルで支持してくれる「信者」を生み出せるようになる。

例えばアップルの場合「革新的やデザイン性の高い製品で、社会に変化を生み出す」というブランドアイデンティティを通して、いわゆる「アップル信者」を生み出していることはあなたもご存じのはずだ。

さらにアップルはブランドアイデンティティをブランド体系の「縦の階層」で一貫させているブランドでもある。

その結果「アップル」という企業ブランドへの期待が「iPhone」という事業ブランドへの期待を生み出し「iPhone」という事業ブランドへの期待が、今度は「iPhone X」という商品ブランドへの期待を形創るという効果を生み出している。

アップルの事例1

更に、今度は逆に「iPhone X」という商品ブランドの評価が高まれば高まるほど「iPhone」という事業ブランドの評価が高まり、事業ブランドの評価が高まれば高まるほど「アップル」という企業ブランドの評価が高まるという、逆方向の効果も生み出している。

アップルの事例2

このアップルの事例のように、ブランド体系の「縦の階層」でブランドアイデンティティを一貫させることができれば、上位ブランドから下位ブランドへ、あるいは下位ブランドから上位ブランドへと、互いに強めあう「相乗効果」を生み出すことが可能となる。

ブランド体系の「横関係」の視点

あなたのブランドの「横の関係」は、果たして「事業ブランド間、あるいは商品ブランド間で棲み分ける関係」になっているだろうか?

ブランド体系の「横関係の視点」とは「事業ブランド間」あるいは「商品ブランド間」の「横関係」を整理し、役割を明確化する視点を指す。

その際に必要な着眼点は、各ブランドが対応する「生活者ニーズのカバー範囲の広さ」だ。

例えばBMWの場合、BMWという単一ブランドで「スポーティな高級車が欲しい」という生活者ニーズをカバーしている。仮にBMWが「リーズナブルでコンパクトな車が欲しい」という生活者ニーズもカバーしようとしたら、いったい何が起こるだろうか?

残念ながらBMWが「リーズナブルでコンパクトな車が欲しい」というニーズに対応し、それに即した車種を発売したら、BMWブランドは「スポーティな高級車」と「リーズナブルなコンパクト車」という背反するブランド連想が混在していくことになる。

その結果、本来の強みであった「スポーティな高級車」というブランド連想は希薄化し「スポーティな高級車が欲しい人が1番に選ぶブランド」ではなくなっていく。

一方で「BMW=リーズナブルなコンパクト車」というブランド連想が中途半端であれば、BMWは「リーズナブルでコンパクトな車が欲しい人」からも選ばれない存在となる。そうなれば共倒れだ。

BMWの事例

これらのように、事業ブランドや商品ブランドごとに設定していく「ニーズのカバー範囲」を間違えば、時にブランドにとって致命的なダメージをもたらす。

ブランド体系の「横関係」を検討する際には、各ブランドごとの「ニーズのカバー範囲」に留意し「異なるニーズごとにブランドを棲み分ける」ことを検討しよう。

 

ステップ2:ブランド体系戦略を策定する

ブランド体系戦略の図解

ここまでは「ブランド体系の整理」について事例を交えて解説してきた。

しかし、ただ単に「ブランド体系を整理した」だけでは成果が出ないのは自明の理だ。真にブランド体系を成果に結び付けるためには「ブランド体系戦略」が必要となる。

ブランド体系戦略は、大きく分けて3つの方法が存在する。

  • マスターブランド戦略(ブランド・アンブレラ戦略)
  • 個別ブランド戦略(マルチブランド戦略)
  • サブブランド戦略(複合ブランド戦略)

以下、それぞれについて事例を交えながら解説しよう。

マスターブランド戦略(ブランド・アンブレラ戦略)とは:マスターブランド戦略のメリットと事例

マスターブランド戦略とは、企業の商品・サービスを「一つのブランドで統一する」戦略を指す。「一つのブランドを傘にして商品・サービスを展開する」戦略であることから、時に「ブランド・アンブレラ戦略」あるいは「単一型ブランド戦略」とも呼ばれることがある。

よくブランディングの書籍で「マスターブランドとは企業ブランドと同じである」と解説されているものを見かけるが、厳密にいえば必ずしも企業ブランドがそのままマスターブランドになるとは限らない。

例えば代々木ゼミナールの事例が典型例だ。「代々木ゼミナール」はその配下に「代々木ゼミナール」「代ゼミ個別指導スクール」「代ゼミサテライン予備校」などのブランドを展開するマスターブランド戦略を採用している。しかし「代々木ゼミナール」の企業ブランドは「高宮学園」だ。

このように「企業ブランド/事業ブランド/商品ブランド」という分け方と「マスターブランド/サブブランド/個別ブランド」という分け方は、ブランディングの実務者の中でも混同されやすい。

「企業ブランド/事業ブランド/商品ブランド」という分け方は、ブランド体系の「実体」を整理する際に用いられる。一方で「マスターブランド/サブブランド/個別ブランド」という分け方は、ブランド体系の「戦略」を検討する際に用いられるもので、ブランド体系戦略における「戦略的意図」を表したものであることを理解しておこう。

ブランド体系の分け方の違い

マスターブランド戦略の事例‐1:「マスターブランド+数字・記号」のパターン

マスターブランド戦略には、大きく分けて2つのパターンが存在する。その1つ目が「マスターブランド+数字・記号」のパターンだ。例えば「Nikon D850」「メルセデスベンツSクラス」などがこれに相当する。

「マスターブランド+数字・記号」のパターンのメリットは「ブランディング投資をマスターブランドに集中できる効率性」だ。このため「規模が小さい企業」や「ブランディングの投資予算が少ない企業」あるいは「商品ブランドの改廃が激しいため、商品ブランドに対する長期的なブランド構築が非効率な企業」の場合に有効な戦略となる。

一方で「マスターブランド+数字・記号」のパターンはデメリットも存在する。それはブランド毀損のリスク分散ができないことだ。

「マスターブランド+数字・記号」のパターンは、いったん不祥事や事故などでマスターブランドのブランド毀損が生じると、マスターブランドを冠したすべての商品・サービスに波及するというリスクを孕む。

また、商品数が増えた場合に「商品間の違いがわかりにくくなる」というデメリットも存在する。例えばNikonの例でいえば、一眼レフカメラに詳しくない初心者にとって見れば「Nikon D850」と「Nikon D7500」の違いは、よくわからないだろう。

マスターブランド戦略の事例‐2:「マスターブランド+一般名称」のパターン

マスターブランド戦略の2つ目のパターンは「マスターブランド+一般名称」のパターンだ。事例を挙げれば「カゴメ・トマトジュース」「ミツカン・味ぽん」「キッコーマン・しょうゆ」などが挙げられる。

「マスターブランド+一般名称」のパターンの狙いは「すでにあるマスターブランドの力を利用し、カテゴリーリーダーとしてのブランド連想を強化できる」ことだ。

しかし鋭いあなたならお気づきかもしれないが、このパターンはすでに当該カテゴリーで強いブランド連想を勝ち取っているカテゴリーリーダーのみが取りうる戦略となる。

例えば、仮に「サントリー・トマトジュース」「日清食品・味ぽん」「ハウス食品・しょうゆ」などを思い浮かべてみて欲しい。後発の追随ブランドがこのパターンの戦略を採用しても、強いブランドは築きにくいことがお分かりいただけるだろう。

マスターブランド戦略(ブランド・アンブレラ戦略)のメリットとデメリット

マスターブランド戦略は、別名「ブランド・アンブレラ戦略」とも呼ばれるように、すべての商品・サービスを一つのブランドの傘で統一する戦略だ。そのためブランド構築に必要な費用やリソースを単一のブランドに集中して投下できるため規模の経済が働きやすく、ブランディングの投資効率は高くなりやすい。

また、組織内で1つのブランドしか存在しないことから、経営者もマスターブランドに注力する傾向にある。そのため、ブランディング上の重要な意思決定の精度が上がるという組織的なメリットもある。

一方で、マスターブランド戦略にはデメリットも存在する。

マスターブランド戦略の最大のデメリットは、マスターブランドの強いブランド連想が、事業拡大時には逆に足枷となるケースも出てくることだ。例えば「低価格」や「カジュアル」といった強いブランド連想を持つ「ユニクロ」や「ダイソー」が高級市場に参入してもうまくいかない、などが典型だ。

よって、マスターブランド戦略を採用する場合には「どのブランドをマスターブランドとして機能させるか?」と並行して「そのマスターブランドは、どの程度幅広い生活者ニーズをカバーできるか?」をじっくり検討しよう。

マルチブランド戦略とは:マルチブランド戦略の意味と事例

マルチブランド戦略とは、独立した別々のブランドをマルチにラインナップし、構築していく戦略を指す。別名「個別ブランド戦略」あるいは「多ブランド戦略」とも呼ばれる。

マルチブランドの構築も、大きくわけて以下の2つのパターンが存在する。

マルチブランド戦略のパターン‐1:「個別ブランドを構築する」パターン

「マルチブランドを強くする」パターンの典型例は、例えば「バファリン」や「ペティグリージャム」あるいは「ペヤング」などだ。それぞれの個別のブランド名は知っていても「企業名」になると「思い浮かばない」という方も多いはずだ。

マルチブランド戦略を採用するための条件は大きくわけて2つある。

1つ目は、独立した個々のブランドに対して潤沢なブランディング投資が可能な場合だ。そして2つ目は、異なるカテゴリー市場で商品・サービスを展開しており、片方のブランド連想がもう片方のブランド連想の足を引っ張ってしまう場合だ。

例えばユニリーバはスキンケア事業(Doveなど)を展開しているが、同時に飲食事業(=Liptonなど)展開している。

そしてもし仮に「ユニリーバ」をマスターブランドに設定した場合「ユニリーバ=スキンケア」のブランド連想が強化されればなるほど「飲食事業」にはマイナスとなる。逆に「ユニリーバ=飲食」のブランド連想が強くなれば「スキンケア事業」にとってマイナスとなることは容易に想像がつくはずだ。

ユニリーバの事例1

この場合には「ユニリーバ」というマスターブランドは目立たせずに「Dove」「PONDS」「Lipton」「ベン&ジェリーズ」などに個別にブランドを分けて展開すれば、ブランド連想の打ち消し合いは起きにくくなる。

このパターンを採用するメリットは、それぞれのブランドのポジショニングや個性(=ブランドパーソナリティ)を明確にしやすいため、多様な生活者の多様なニーズに応えやすい点だ。

ユニリーバの事例2

マルチブランド戦略のパターン‐2:「個別ブランド+サブネームで広げる」パターン

このパターンの典型例は「ファンタ・オレンジ」や「ジョニーウォーカー・ブラックラベル」などだ。いわば「軸となる個別ブランド名+記号・名前」で商品ラインを広げるパターンだ。
このパターンは「今すでにある強い個別ブランド」を利用して商品ラインを広げていく戦略であり、企業側からすれば莫大な投資をせずに商品ラインを広げていくことができる。また、生活者側から見れば「すでに認知しているブランドの派生品なので覚えやすい」というメリットがある。

しかしデメリットとしては、派生ブランドが失敗した場合は親ブランドまで影響が及びやすいことが挙げられる。また、商品ラインを広げすぎた場合、親ブランドのポジショニングやブランド連想が希薄化し、ブランドに対する感情移入が弱まる場合もあるので注意が必要だ。

マルチブランド戦略(個別ブランド戦略)のメリットとデメリット

マルチブランド戦略は別名「個別ブランド戦略」とも呼ばれるように、ブランディング投資が複数のブランドに分散するため相応のリソースが必要となる。しかしその反面、マスターブランド戦略とは異なり多様な生活者ニーズを個別のブランドで対応していくことが可能となる。

そしてもし個々のブランドが強いブランド連想とポジショニングを確立できれば、いわば「一本足打法」ではない強固な事業基盤を形創ることができる。P&Gやユニリーバ、あるいは花王などがその典型だ。

しかし、マルチブランド戦略には2つのデメリットが存在する。

第1に、マルチブランド戦略はブランドごとに価格、新商品、広告などの意思決定が必要となる。また、個々のブランドが互いに食い合いが起きないように、的確なブランドマネジメントが求められる。もしこれに失敗すればブランドのターゲットやポジショニングが重複し自社内でカニバリを起こし、最悪「共倒れ」となる。

そして2つ目のデメリットは、マルチブランド戦略は非効率を招きやすいことだ。個々のブランドが別々に商品を投入するため、多ブランド化が進み、規模の経済やシナジーが限定されるデメリットが存在する。その結果、満足のいく収益規模に達しない「数多くの小型ブランド」を抱えてしまうリスクを孕むことになる。

サブブランド戦略とは:サブブランド戦略の意味と事例

サブブランド戦略とは、マスターブランドに対して個別ブランドを「サブとして」組み合わせる戦略を指す。いわば「強いマスターブランド」が「弱い個別ブランド」をアシストする構図を創る戦略ともいえる。マスターブランドと個別ブランドの二つを組み合わせる戦略であるため、別名「複合ブランド戦略」とも呼ばれる。

サブブランド戦略(複合ブランド戦略)の事例とメリット・デメリット

日本ではサブブランド戦略を採用する企業は多い。例えば任天堂は「Nintendo 3DS」「Nintendo Wii」「Nintendo Switch」などにみられるように「任天堂」という企業ブランドをマスターブランドとして位置づけた上で「3DS」「Wii」「Switch」というサブブランドを展開している典型事例だ。

また、サントリーも「サントリー烏龍茶」「サントリー伊右衛門」「サントリーグリーンダカラ」など「サントリー」をマスターブランドとして位置付けた上でサブブランドへのアシスト効果を狙う戦略を展開している。

サブブランド戦略のメリットは、すでにマスターブランドが一定の知名度やブランド連想を確立しているため、個別ブランド戦略のように1つ1つのブランドを全く無名から始めるよりもブランディング投資がかからない点だ。

さらに「サントリーBOSS」のように、サブブランド(=BOSS)の知名度やブランド連想が向上していくと、徐々にサブブランド自体がマスターブランド化してくる。すると今後はBOSSをマスターブランドとして位置付けたサブブランド戦略が展開しやすくなる。

現にBOSSの場合、当初は「サントリー」がマスターブランドだったが、現在ではBOSSをマスターブランドに「BOSSレインボーマウンテン」「BOSS贅沢微糖」「BOSS BLACK」「CRAFT BOSS」などのサブブランドを展開している。

このサントリーの事例に見られるように、まずは強みを持ったマスターブランド(=サントリー)を前面に出してサブブランド(=BOSS)の知名度を上げていきながら、少しずつ「サントリー」というマスターブランドの存在感を消していく。そしてサブブランド(=BOSS)がマスターブランド化したところで、今度はその配下にサブブランド(=レインボーマウンテン/贅沢微糖/CRAFT BOSS等)を展開していけば、大きなリスクを回避しながら個別ブランド戦略(マルチブランド戦略)に移行し、幅広い生活者ニーズに対応していくことができる。これがサブブランド戦略の最大のメリットだ。

サントリーBOSSのサブブランド戦略(複合ブランド戦略)の事例

しかし鋭いあなたならお気づきかもしれないが、サブブランド戦略は「強いマスターブランド」がなければ機能しない。また、個別ブランド戦略と比べて、サブブランドがマスターブランド化するのに時間を要するのもデメリットだ。

 

ブランド体系を管理する:ブランドポートフォリオ戦略

ブランド体系を管理する:ブランドポートフォリオマネジメント

最後に、ブランド体系を適切に管理していくための「ブランドポートフォリオ戦略」について解説しよう。

ブランドポートフォリオ戦略とは

ブランドポートフォリオ戦略とは、採用したブランド体系戦略に乗っ取って、複数ブランド間での重複やカニバリ(食い合い)を防ぎ、かつ補完効果や相乗効果を得られるように各ブランドを管理していく戦略を指す。

ブランドポートフォリオマネジメントに求められる視点とは、以下の4つだ。

  • ブランド間の重複やカニバリ(=食い合い)の回避
  • ブランドの階層間(=ブランドの縦関係)における、ブランドアイデンティティの矛盾の回避
  • 複数ブランドを保有することによるリスクヘッジ
  • 複数ブランドを保有することによるシナジー(相乗効果・補完効果)の発揮

ブランドポートフォリオとブランドマネジメント組織

鋭いあなたならお気づきだろうが、ブランドポートフォリオマネジメントは、個々のブランドを管理するマーケティング担当者の仕事ではなく、その上位に位置するCMO(あるいはCMO組織)の仕事となる。

特にマルチブランド戦略(個別ブランド戦略)を採用している企業に顕著だが、複数のブランドが何の棲み分けもなく「売上」と「利益」を求めてしまえば、すべてのブランドが「売れている市場」と「売れている商品」を追いかけることになる。結果、それぞれのブランドの個性は同質化し、似て非なるブランドが店頭に出回ることになる。もしそうなれば、行き着く先は自社ブランドのカニバリ(=食い合い)による共倒れだ。

マーケティング担当者のように、自分が担当しているブランドのことだけを考えれば良いのなら、他のブランドへの迷惑など顧みず、とにかく自分が担当するブランドの売り上げや利益を伸ばすことだけを考えればよい。

しかしCMOとなると自分の責任範囲は全てのブランドとなることから、機会損失を避けるためにも自社内カニバリ(=食い合い)は最小化しなければならない。つまり、それぞれのブランドを棲み分けながら相乗効果や補完効果を発揮する方法を模索し、戦略を効率的に実施するという職責を果たさなければならない。

これは組織的には、CMO組織が志向する「全体最適」の考え方と、個別ブランド部門が志向する「個別最適」という考え方をどう調整していくか?という高度なマネジメント課題に直面することを意味する。

また、強いブランドを創るには「生活者ニーズに合わせて変えること」と「ブランドアイデンティティを一貫させること」という相反することを両立させるマネジメント能力も必要となる。

今、多くの企業にはこうした高度なブランドポートフォリオマネジメントと意思決定を行える「プロフェッショナルなCMO組織」が求められている。

一般に、企業が保有するブランドは「投資が必要なブランド」「現状維持のブランド」「利益獲得のブランド」「消滅させるブランド」の4つにわけることができる。

1つの商品ブランドのみを管理するのであれば、ブランドを通して夢を見る組織を擁しておけば十分だ。しかしブランド体系上、最も下層に位置する商品ブランドは生活者の志向の変化や経済状況の変化を受けやすく、それに応えていくために改廃を余儀なくされることも多い。

そしてその意思決定を下せるのは、各ブランドを俯瞰的にとらえる「CMO組織」のみとなる。「CMO組織」は「ブランドを通して夢見る組織」と異なり「冷静にブランドポートフォリオを管理する嫌われ人材」になりがちだ。

しかし、ブランド体系を整理し、ブランド体系戦略を推進しようとするのであれば「夢見る組織」と「冷静に意思決定する組織」の健全なコンフリクトは必須となる。

これらのことを踏まえれば、ブランドマネジメントを有効に機能させるための要諦は、実は「ブランド体系の整理」だけでなく「組織論」だあることがおわかりいただけるはずだ。

その他の解説記事とおすすめ書籍

もしあなたが本解説以外にも関心があるのであれば、リンクを張っておくのでぜひ必要な記事を探していただきたい。

また、下記の記事ではより深くブランディングやマーケティングを学びたい方におすすめ書籍を紹介している。ぜひご覧いただければ幸いだ。

ブランディング・マーケティング関連のおすすめ書籍紹介

ビジネススキル・マネジメント関連のおすすめ書籍紹介

終わりに

今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかるブランディングの解説」を続けていくつもりだ。 

しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。

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