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プロダクトライフサイクル|製品ライフサイクルの例と戦略に活かす方法

プロダクトライフサイクルとは|製品ライフサイクル理論を図解解説|事例有

この記事に辿り着いたあなたなら「プロダクトライフサイクルとは何か?」あるいは「製品ライフサイクルを戦略に活かす事例」に関心を持っていることだろう。

このブログ「Mission Driven Brand」は、外資系コンサルティングと広告代理店のキャリアを持つ筆者が、ブランディングやマーケティングの「できない、わからない」を解決するブログだ。

ブランディングやマーケティングには、必ず「その時々の局面」が存在する。そして「局面」が変化すれば、局面の背景で働く「市場力学」も変化する。

もし「局面」ごとに「市場の背景で働く力学」を見抜くことができれば、あなたは局面ごとに適切なブランディングやマーケティングの施策を展開することが可能になる。

また、プロダクトライフサイクルは「時系列で捉える」というフレームワークの性質上、早い段階で「市場力学の変化」を予見し「先手を打って対策を練っておく」ことを可能するフレームワークでもある。

よって、今回はプロダクトライフサイクルについて解説しよう。その内容は以下の通りだ。

  • プロダクトライフサイクルとは何か?
  • 市場導入期に必要な戦略と例
  • 市場成長期<前期>に必要な戦略と例
  • 市場成長期<後期>に必要な戦略と例
  • 市場衰退期に必要な戦略と例
  • プロダクトライフサイクルマネジメントのポイント

もし、この解説を最後までお読みになれば、あなたは「局面ごとの市場力学」を味方につけ「先手を打った」ブランディングやマーケティングが展開できるようになるはずだ。 

ブランド戦略を学びたい方へ。このブログから書籍化した「ブランディングの教科書」

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本論に入る前に、僭越ながら拙著を紹介させていただこう。

「ブランディング」は捉えどころがなく、なかなか一歩を踏み出せない。あなたはこのような状況に陥ってはいないだろうか?

本書の執筆陣は、ある時は広告代理店のストラテジックプランナーとして、ある時は、外資系コンサルティングファームのコンサルタントとして、クライアントの実務担当者が悪戦苦闘する姿を見てきた。

「ブランディング」は、その本質を理解しないまま実行に移そうとすると、的を射ない小手先の手法を延々と繰り出すことになりがちだ。結果、やみくもに予算を消化したまま、成果が出ない事態に陥ってしまう…。

そのような事態を1件でも減らしたい。そう考えたのが本書を執筆した理由だ。

ブランディングの本は、どれも「ブランドのらしさ」「ブランドの世界観」など「ふわっと」した話になりがちだ。そして「ふわっ」とした話になればなるほど抽象的かつ曖昧な概念論になってしまい、企業組織の中で通すことが難しくなる。

本書は、外資系コンサルティングファームと広告会社で培った「生の知見」をふんだんに盛り込みつつ、つい「抽象論」に陥りがちな「ブランディング」に対して「論理的な納得性」と「直感的な腹落ち感」の両面を追求した書籍だ。

本書のタイトルは「ブランディングの教科書-ブランド戦略の理論と実践」だ。

「理論」が理解できなければ、ブランディングを体系化できず、ビジネスに再現性を生むことができない。そして「実践」が理解できなければ、ビジネスに成果をもたらすことができない。

本書は、ブランディングの理論と実践をつなぐ「ブランディングの教科書」として、ブランド戦略の再現性と成果を目指した書籍だ。

おかげさまで、本書はAmazon kindle売れ筋ランキング「消費者主義」ジャンルでベストセラー1位を獲得し、Amazonレビューでも、

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など、ありがたい言葉を頂いている。

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もし、あなたがこれらに当てはまるなら、ぜひAmazonのページで本書の目次をチェックしていただきたい。つい感覚論になりがちな「ブランディング」に対して、

  • なぜ、そうなのか?
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を徹底して解説しているので、あなたのお役に立てるはずだ。

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プロダクトライフサイクル(製品ライフサイクル)とは?

プロダクトライフサイクルとは何か

プロダクトライフサイクル(Product Life Cycle)とは、商品やサービスが市場に導入されてから売り上げが伸びはじめ、やがて成長が止まり、衰退するまでの時系列プロセスを表したフレームワークだ。

「プロダクトライフサイクル」とは

商品やサービスが市場に導入されてから売り上げが伸びはじめ、
やがて成長が止まり、衰退するまでの時系列プロセスを表したフレームワーク

商品やサービスの生涯を生物の一生に例えているから「ライフサイクル」という言葉が使われている。またプロダクトライフサイクルは、別名「製品ライフサイクル」あるいは頭文字を略して「PLC理論」と呼ばれることもある。

プロダクトライフサイクルは、1960年代にアメリカの政治学者レイモンド・バーノンが提唱者とされる。そしてその後マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーによって広くマーケティング業界に普及した理論だ。

プロダクトライフサイクルマネジメントとは

PEST分析や3C分析、ファイブフォース分析など多くのフレームワークは、その時々の時点を「スナップショット」で捉えるフレームワークだ。しかしプロダクトライフサイクルは市場導入から衰退までの「流れ」を動的にとらえるのが最大の特徴だ。

別の観点でいえば、プロダクトライフサイクルはある程度の「将来予測」を可能にし、将来の局面変化に対して「事前に手を打っておく」ことを可能にするマネジメントのフレームワークともいえる。プロダクトライフサイクルが、時に「プロダクトライフサイクルマネジメント」と呼ばれるのはこのためだ。

プロダクトライフサイクル理論とは

一般的なプロダクトライフサイクル理論では、市場の局面変化を「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」という4段階で捉えることが多い。また、プロダクトライフサイクルを図解する際には、売上や利益を縦軸、時系列推移を横軸にとった売上曲線や利益曲線で示されることが一般的だ。

プロダクトライフサイクルの図解例-1

プロダクトライフサイクル(製品ライフサイクル)とは?-3:プロダクトライフサイクル理論の図解例①

賢明なあなたならお気づきかもしれないが、上記のような「よくあるプロダクトライフサイクル」は「売上や利益の変化はこうなりやすい」という「結果」の話でしかない。プロダクトライフサイクルを単なる「勉強対象」としてとらえるならそれでも良いが、この記事を読んでいるあなたは実務家のはずだ。そして実務家のあなたなら、

  • なぜ
  • どのような市場・生活者の変化があって
  • それがどのようなロジックで自社ブランドに影響して
  • 売上や利益にインパクトを与えるのか?

が重要な関心ごとになるはずだ。なぜならプロダクトライフサイクルを活用する目的は「将来を見越して事前に手を打っておく」ことであり、そのためには売上や利益に影響を与える「原因」や「力学」の洞察が必要不可欠だからだ。

よってここからは、

  • 市場・生活者の変化(=原因)
  • 自社ブランドへの影響(=力学)
  • 売上・利益の変化(=結果)

の因果関係がわかりやすいように、以下の5段階のプロダクトライフサイクルの図解例を用いて解説していこう。

プロダクトライフサイクルの図解例-2

プロダクトライフサイクル(製品ライフサイクル)とは?-3:プロダクトライフサイクル理論の図解例②

プロダクトライフサイクルの例-1:市場導入期の戦略と事例

プロダクトライフサイクルの例-1:導入期の戦略と事例

市場導入期とは

プロダクトライフサイクルの導入期とは、新しい商品やサービスを市場に導入した直後の時期を指す。

プロダクトライフサイクルの導入期では、いかに商品やサービスを市場に浸透させることができるかが最初の難関となる。マーケティングの世界ではよくセンミツ(1,000個の商品のうち1つしか成功しない)という言葉が使われるが、多くの商品・サービスは導入期でつまずき撤退することになる。

市場導入期における購入者層:イノベーター層

プロダクトライフサイクルの導入期に商品やサービスを購入するのは「先端技術」や「最高機能」など「スペック」を重視するイノベーター層が中心だ。ロジャースのイノベーター理論に従えば、市場内での普及率は「2.5%まで」が目安となる。

プロダクトライフサイクルの例-1:導入期の戦略と事例

イノベーター層とは、常にスペックの先端を先取りし、新しいモノが出ると進んで採用する生活者層だ。より直感的に表現するなら、その分野における専門知識や先端情報に長けた「マニア層」といえる。

例えば、あなたがPCやIT機器について「詳しそうだから」と尋ねてみた相手から「専門用語のオンパレード」で返答され「一生懸命解説してくれるのは嬉しいけど、言ってる言葉の意味すらわからない」という経験をしたことがないだろうか?そんな人がイノベーター層のイメージだ。

イノベーター層(=マニア層)は、時にメーカーの開発者すら舌を巻くような製品知識・評価眼を持っている。そうであるがゆえに、詳しすぎて一般層とはかけ離れた感覚を持っているのが特徴だ。

そして「マニア」という言葉からイメージできるように、本人にとってはその分野が「趣味」として生きがいになっており、例え所得が少なくても、可処分所得や時間の大半を惜しみなく投入する。

また「自分はその分野の専門知識を持っている」という自負から、他人の評価を気にせず、自分の思想・基準・価値観に基づいて購買行動を行う。そのため、ブランドやイメージ、あるいは「有名かどうか」は気にせず、自分の評価眼に照らして「良い」と思ったものを躊躇いなく選ぶのが特徴だ。

市場導入期における企業側の状況

一方、企業側から見れば、プロダクトライフサイクルの導入期は事業立ち上げの初期投資がかさむ一方で、イノベーター層の市場規模が2.5%と少ないことから、調達や生産のスケールメリットが効きにくい。その結果、部品や原材料の調達原価は高止まりしやすくなる。

また、商品やサービスを市場導入して間もないこともあり、経験曲線による習熟効果(生産量を重ねることでモノづくりの手順が標準化され、加工費の単位コストが低減していく効果)も充分ではないため、加工費も高止まりする時期だ。

また、その商品カテゴリーに対する需要も少ない時期であることから、流通業者に関心を持ってもらったり、生活者に知ってもらったりするためのプロモーションコストも多額にかかる時期でもある。

その結果、市場導入期はキャッシュインが少なく、キャッシュアウトは大きくマイナスとなるため、多くの場合赤字が続く苦しい時期となる。

市場導入期に必要な戦略

プロダクトライフサイクルの導入期は、ブランドはもちろんその商品カテゴリー自体に対する知名度が低く、ニーズも少ない時期だ。そのため、市場を開拓し、市場自体の認知度を高めていくことが目標となる。

市場導入期の商品・価格戦略

商品戦略はイノベーター層(=マニア層)に対して「最先端の技術」や「画期的な機能」を搭載したハイスペックラインを打ち出していくことが多い。

市場導入期の流通戦略

また、流通戦略では高い流通マージンを設定した上で直販や専門店などの閉鎖的なチャネル戦略を採用し、価格はスキミングプライス(先端層に対して、高価格による粗利を獲得する価格戦略)を採用することで早期に投資コストを回収していくのが基本だ。

市場導入期のプロモーション戦略

また、プロモーション戦略では「最先端」や「これまでにない機能」を打ち出しながらイノベーター層(=マニア層)を開拓していくことが基本戦略となる。

市場導入期のポイント

もし、これらの戦略が奏功し、ブランドが商品カテゴリーの先駆者として認識されれば、あなたのブランドは商品カテゴリーを代表するブランドとして認識され、強固なブランドの確立につながる。

一方で、中途半端にビジネスを継続した結果、普及が進まないまま投資がかさんでしまい、気が付けば大損失に陥ってしまっていた、などは「市場導入期のあるある」だ。

プロダクトライフサイクルの導入期では、マーケティング努力に対する生活者の反応は手探りとなる。そのためマーケティング資源をどれだけ継続投入するかは非常に難しい判断だ。

しかし、もしあなたがプロダクトライフサイクルを理解しておけば、事前の計画段階で「市場導入期の難しさ」を認識しておくことができる。そうすれば、あらかじめ計画段階でKPIを設定し「投資継続基準」あるいは「撤退基準」を決めておく、などの事前対応が取れるようになるはずだ。

プロダクトライフサイクルの例-2:成長期<前期>の戦略と事例

プロダクトライフサイクルの例-2:成長期<前期>の戦略と事例

市場成長期<前期>とは

プロダクトライフサイクルの成長<前期>とは、無事に導入期を脱して市場成長率が上昇し、売上高が急拡大していく時期だ。

しかしこの段階になると「市場成長の兆し」が明らかとなるため、機動力の高いベンチャー企業が続々と新規参入してくる。本記事を執筆している時点では、仮想通貨市場などがその典型だろう。

市場成長期<前期>における購入者層:アーリーアダプター層(オピニオンリーダー層)

プロダクトライフサイクスの成長<前期>になると、商品やサービスの購入者層はアーリーアダプター層が中心になる。

アーリーアダプター層とは、別名「オピニオンリーダー層」とも呼ばれ、その特徴は「流行に対する感受性」が高く「流行の先端好き」であることだ。市場内での普及率は「2.5%~16.0%まで」アーリーアダプター層の市場ボリュームは「13.5%」が目安となる。

プロダクトライフサイクル成長期<前期>における購入者層:アーリーアダプター層(オピニオンリーダー層)

導入期におけるイノベーター層が、スペックに対する高い専門知識と評価眼を持ち他人の評価を気にしない「マニアな人」だったのに対し、アーリーアダプター層はスペックに対する評価眼は高くないが「流行」に対する感度が高く「これは今後普及しそう」と思えば、いち早くコミュニティに持ち込んでくる人たちだ。

あなたの周りにも、いち早く「Apple Watch」を身に着けてきて「いや~手に入れちゃったよ~」などといいながら、その価値を周囲に見せびらかす人がいることだろう。その人こそが、まさにアーリーアダプターだ。

またTwitterをしている方なら「さっそく使ってみた。いいよ~」などのお薦めツイートに出くわした方も多いはずだ。こちらもアーリーアダプターの典型となる。

イノベーター層は「マニアック過ぎて自分とは別世界の人」として距離を置かれがちだが、アーリーアダプター層は「流行の一歩先を行っている人」として周囲に人が集まりやすい。

その背景には、アーリーアダプター層の購買動機が「自己顕示欲」や「承認欲求」という「傍からの見た目」にあることだ。その結果、周囲の人たちに影響を与えやすく、商品やサービスの普及の大きなカギを握る場合が多い。

そして鋭いあなたならお気づきのことと思うが、アーリーアダプター層のこれらの性質を利用したのが、近年クローズアップされている「インフルエンサーマーケティング」だ。

市場成長期<前期>における企業側の状況

プロダクトライフサイクルの成長<前期>では、市場全体の13.5%のボリュームを持つアーリーアダプター層に普及が進み、売上数量が飛躍的に拡大していく。そのため、生産設備の増強やチャネル拡大のために多額の資金が必要となる時期だ。

しかし規模の経済や習熟効果によって商品の単位コストが下がるため、導入期のような赤字は解消し、急速に利益が拡大していくことが多い。

市場成長期<前期>に必要な戦略

商品やサービスが成長<前期>に移行すると、あなたの商品・サービスの販売数量は大幅に伸びていくことになる。よって、徐々に流通マージンを減らしながら「開放的チャネル戦略(一般量販店)」へ移行していくのが基本となる。

市場成長期<前期>のポイント

しかしプロダクトライフサイクルの導入期から成長期に移行できる商品やサービスは、ほんの一握りにすぎない。だとすれば、実務家であるあなたの最大の関心は「プロダクトライフサイクルの導入期を抜けて、成長期に至るにはどうすればいいのか?」ではないだろうか?

残念ながら、ほとんどの商品は市場導入後、成長期に至らないまま市場から消えてしまう。しかし少しでも「成長期」に普及させる可能性を高めるためには、どのような視点が必要だろうか?

あなたがマーケティング担当者であれば、どこかで「キャズム理論」という言葉は耳にしたことがあるだろう。「キャズム理論」を簡単に解説すれば、普及率が16%近くになると、いったん普及速度が停滞するとされる理論だ。

しかしk_birdの実務経験に照らせば、キャズムはもう1つ存在する。それが「導入期」と「成長<前期>」の間にある「普及率2.5%のキャズム」だ。

プロダクトライフサイクル成長期<前期>のポイント:普及率2.5%のキャズム

先ほど解説したように「イノベーター層」は先端技術や性能など「スペック」を高く評価する人たちだ。

一方で「アーリーアダプター層」は「これから流行りそうだ」という期待や「流行のものをいち早く手に入れる」ことに関心があり「自己顕示欲」や「承認欲求」でモノを買う人たちだ。

つまり、購入動機が全く違う。

さらに、導入期のイノベーター層は「専門的過ぎてマニアックに閉じた人たち」であるため、その後の「アーリーアダプター層」に影響を与えない。このことも「普及率2.5%のキャズム」を生じさせている原因だ。

プロダクトライフサイクルは「導入期には…」「成長期には…」という文脈で語られがちだが、より重要なのは「いかに次の段階へ移行するか?」であり「プロダクトライフサイクルの各段階の狭間」を見極めることだ。

もしあなたが「新商品・サービスを市場導入したものの、なかなか売れない」と感じているのなら、商品やサービスの普及がイノベーター層に留まっており、アーリーアダプター層にまで至っていない可能性が高い。

よって「イノベーター層とアーリーアダプター層の性質の違い」を見極めた上で「アーリーアダプター層に対して、どのような期待を創れるか?」に知恵を絞ろう。

プロダクトライフサイクルの例3:成長期<後期>の戦略と事例

プロダクトライフサイクルの例3:成長期<後期>の戦略と事例

市場成長期<後期>とは

プロダクトライフサイクルの成長<後期>とは、商品やサービスが大衆層に浸透し始めてから、成熟期に差し掛かっていくまでの時期を指す。

プロダクトライフサイクルの成長<後期>になると誰が見ても市場のポテンシャルが明らかとなるため、大手企業が子会社を設立して参入してくるケースが増える。例えば仮想通貨市場でいえば、マネックス証券がコインチェック社を買収して参入してくるのがその典型例だ。

プロダクトライフサイクルの成長<後期>は様々な企業がこぞって市場参入してくるため百花繚乱の状態となりやすい。そのため、商品やサービスの差がなくなり(より正確に言えば、生活者から見て違いがわかりにくくなり)価格競争やブランド競争が激しくなっていく時期でもある。

市場成長期<後期>における購入者層:アーリーマジョリティ層

プロダクトライフサイクルの成長<後期>の購入者層はアーリーマジョリティ層が中心になる。

アーリーマジョリティ層とは、日本語に訳すと「早期大衆層」とも呼ばれ、一般大衆層の先駆けとなる人たちだ。市場内での普及率は「16%~50%まで」市場ボリュームは「34%」が目安となる。

アーリーマジョリティ層の最大の特徴は、先ほど解説したアーリーアダプター層のお奨めに対して「影響を受ける側」の人たちであることだ。

プロダクトライフサイクル成長期<後期>における購入者層:アーリーマジョリティ層

例えばAmazonで言えば、アーリーアダプター層は「レビューを書く側の人達」だが、アーリマジョリティ層は「レビューを読む側の人達」だ。

アーリーマジョリティ層は、良くも悪くもアーリーアダプター層から影響を受ける。しかし逆を言えば「例え興味があったとしても、アーリーアダプター層のお薦めを確認しないと動かない」慎重さを兼ね備えた人たちともいえる。

いわばアーリーマジョリティ層は、大衆層への普及の入り口として「新しいもの好き」でありつつも、様々な情報を集めながら「実利的な利用価値」もクレバーに判断する人たちだ。

そしてこの層は、新商品がマス大衆層へ普及する上での媒介層であることから「ブリッジピープル」とも呼ばれる。

市場成長期<後期>における企業側の状況

プロダクトライフサイクルの成長<後期>になると、商品・サービスは34%の割合を占める大衆層(=アーリーマジョリティ層)へ普及が浸透していくため、売上・利益は大きく伸びやすい時期だ。

しかし誰の目にも市場の魅力度が明らかとなることから、大手企業の新規参入が相次ぐ。更に、徐々に市場成熟期差し掛かっていくため価格競争も激しくなっていく。

結果、ブランドへの投資や流通マージンの引き下げなど、競争対抗上のマーケティングコストは増えていくことになる。いわば次の局面である「市場成熟期」の競争優位確立に向け、正念場となる時期だ。

市場成長期<後期>に必要な戦略

プロダクトライフサイクルの成長<後期>はマス大衆層への登竜門となる。

しかし「成長<前期>」から「成長<後期>」への普及の狭間にも、先ほど解説した「キャズム」が存在する。それがキャズム理論で有名な「普及率16%のキャズム」だ。

プロダクトライフサイクル成長期<後期>の戦略:普及率16%のキャズム

前述したように「イノベーター層」と「アーリーアダプター層」では、その背景にあるニーズが大きく異なる。それと同様に「アーリーアダプター層」と「アーリーマジョリティ層」でも、その背景にあるニーズは大きく異なる。

アーリーアダプター層は「自己顕示欲や自己承認欲求」を背景に「自分が話題の中心になりたい」という動機で商品やサービスを選ぶ傾向が強い。

一方で「アーリーマジョリティ層」は「流行に後れたくない」という気持ちがありつつも「実利としての利用価値」や「安心感」も慎重に見極めようとするクレバーな人たちだ。

よって、アーリーマジョリティ層に対しては「新たな流行としての期待感」だけでなく「実利」や「ブランドとしての安心感」も同時に形創っていくことが必要になる。

例えば「早い人は、もう初めてる!」「新常識!」など、流行に対する煽り要素を入れながら「業界シェアNo.1!」「顧客満足度No.1!」など安心感を打ち出すTVCMを、あなたもご覧になったことがあると思う。

これらは「新しさへの期待感」と「安心感」を同時に演出する「成長<後期>」の典型的な戦略だ。

市場成長期<後期>のポイント

プロダクトライフサイクルの成長<後期>は、次の局面である「成熟期」を優位に戦うための足場固めを行う時期でもある。

もしプロダクトライフサイクルの成長<後期>に大きなシェアを獲得しておけば、市場成熟期には規模の経済を活かしてコスト優位に戦えるようになる。

また、あらかじめ強いブランドロイヤリティを築いておけば、価格競争が激しくなる中、価格プレミアム(=ブランドへの感情移入により、高価格でも選んでもらえる効果)という強みも発揮できる。価格面とコスト面両面でのメリットは非常に大きい。

また、多くの場合プロダクトライフサイクルの中で最も期間が長いのが「成熟期」だ。

そのため、プロダクトライフサイクルの「成長<後期>」に適切に足場固めをしておけば、期間の長い「成熟期」を優位に戦うことができるようになる。

冒頭でも解説した通り、プロダクトライフサイクルは「将来を先読みし」「先手を打つ」ためのフレームワークだ。

ぜひ「成長<後期>」の段階で「成熟期」を見越した「先手」を打っておいてほしい。

プロダクトライフサイクルの例-4:成熟期の戦略と事例

プロダクトライフサイクルの例-4:成熟期の戦略と事例

市場成熟期とは

プロダクトライフサイクルの成熟期とはニーズが頭打ちとなり、市場の拡大が見込めなくなってきた時期を指す。

プロダクトライフサイクルの成熟期になると「新規顧客」より「買い替え・買い増し顧客」がメインとなるため売上の伸びは鈍化し、限られたパイの中で競合同士がシェアを奪い合う構図となる。そのため価格競争が激しくなりやすい。

また、生活者の価値観やニーズが多様化し「画一的なものより、個性があるもの」を重視するようになっていくため市場が細分化していき、

  • 性能やスペックを追求したブランド
  • デザイン性で勝負するブランド
  • 性能を抑えた格安ブランド

など、商品やサービスの個性化が進んでいく時期でもある。

市場成熟期における購入者層

プロダクトライフサイクルの成熟期になると、購入者層は、

  • 新規に購入する新規購入者層
  • 買い替えや買い増しで購入するリピート購入者層

が混在してくるのが特徴だ。以下、上記2つの購入者層について、それぞれ解説しよう。

市場成熟期における購入者層-1:レイトマジョリティ層

この2つの中でも、プロダクトライフサイクルの成熟期になった初めて新規購入する層が「レイトマジョリティ層」だ。

「レイトマジョリティ層」とは、日本語に訳すと「後期大衆者」とも呼ばれ、周囲の動向を伺いながら、商品やサービスが当たり前に定着するのを待って初めて購入を決める人たちだ。市場内での普及率は「50%~84%まで」市場ボリュームは「34%」が目安となる。

プロダクトライフサイクルの成熟期における購入者層-1:レイトマジョリティ層

レイトマジョリティ層は、その分野の商品・サービスの動向に疎い。そのため購入動機は「周囲や環境に押されて仕方なく…」という消極的な理由になることが多い。

例えばガラケー利用者が「周りのほとんどがスマホを使っているから」「今時ガラケーを使っているのは恥ずかしいから」などの理由でスマホ購入を検討しはじめる、などが典型例だ。

また、レイトマジョリティ層はその分野に詳しくなく、自分から能動的に調べるモチベーションも低い。また、商品・サービスに対する評価眼が乏しいため、選択基準は

  • 一番売れているから
  • 有名だから
  • TVCMで頻繁に見かけるから
  • 店員の薦め

など「周辺価値」に重きを置くのが特徴だ。

レイトマジョリティ層は、市場全体の34%を占めるためボリュームは大きい。しかし攻略するためには「販売実績やブランドによる安心感」「TVCMなどによる、目に触れる機会の多さ」「流通支配力による、店員からの薦め」など「総合力」が試されることになる。

市場成熟期における購入者層-2:リピート購入層

プロダクトライフサイクルの成熟期になると、購入者層は「新規購入層」だけでなく「買い替えや買い増しで購入するリピート購入層」も増えてくる。

「リピート購入層」はプロダクトライフサイクルの「導入期」や「成長期」に一度その分野の商品・サービスを購入し、使用している人たちだ。

そのため、商品やサービスに対する基本性能はもはや「当たり前感覚」となっており、彼ら彼女らの関心は基本性能以外の「デザイン」「ブランド」「価格」などに移りやすい。

プロダクトライフサイクルの成熟期における購入者層-2:リピート購入者層

また「成熟期」は彼ら彼女らが初めて購入した「導入期」や「成長期」と比べて、商品・サービスの個性化が進んでいる状態だ。

これらを踏まえれば、いかに多様化したニーズに応え、自社のリピート顧客層を囲い込むか?競合ブランドからのブランドスイッチを狙うか?が重要であることがおわかりいただけるはずだ。

市場成熟期に必要な戦略

プロダクトライフサイクルの成熟期になると、多くの企業は「多様化していくニーズを全方位的に満たすのか?」あるいは「選択と集中を行い、収益性を高めながら生き残りを目指すのか?」という決断を迫られる。

そしてこれらを検討する際に有益なのが「競争地位別戦略」というフレームワークだ。

市場成熟期に必要な戦略-1:リーダー戦略と事例

もしあなたの商品・サービスがシェア1位なら、大量仕入れによる原材料費の低減や経験曲線効果によって、業界内での収益性は高くなっているはずだ。いわば「規模の経済」が働いている状態といえる。

よって、その優位な状態を維持するために、差別化してきた競合企業に対して同質化をしかけていくのが基本戦略となる。いわば、業界下位企業に「足元をすくわれない」ための戦略だ。移動体通信業界でいえばNTT Docomoがこれに当たるだろう。

市場成熟期に必要な戦略-2:チャレンジャー戦略と事例

もしあなたの商品・サービスがシェア1位を窺うような商品・サービスなら「リーダー企業の足元をすくう」のが基本戦略となる。

具体的には、リーダー企業のリピート購入層が抱えている不満を発見し、その不満を解決できる商品・サービスを投入する、あるいはリーダー企業が満たせていない細分化ニーズを発見して、そのニーズを満たす商品・サービスを投入する、などが典型例だ。

移動体通信業界の事例でいえば、auやSoftBankがこれに当たるだろう。

市場成熟期に必要な戦略-3:フォロワー戦略と事例

世の中には「性能はそこそこでいいから、割安のモノが欲しい」という生活者が一定数存在する。

フォロワー戦略とは、そんな生活者のニーズを満たすために、機能や性能への投資を必要最小限にセーブし、浮いたコストを価格に転嫁させ「そこそこの性能×割安感」で戦っていく戦略だ。

多くの商品・サービスは、市場競争にさらされると機能や性能を追加して差別化を図ろうとする。しかし「機能追加競争」が臨界点を越え、すでに生活者にとっては意味のある違いでなくなっているにもかかわらず、価格は高止まりしている、というケースはよくあることだ。

現在この戦略で成功しつつある事例がY!mobileやUQモバイルなど格安スマホであり、この戦略を採用することでリーダー企業にまで昇り詰めたのがユニクロだ。

市場成熟期になると、戦略は時に「引き算」で成功することがある。

もしあなたの商品・サービスが、リーダー企業に引き離されているのなら、市場で生き残るための方法としてフォロワー戦略の採用を検討しよう。

市場成熟期に必要な戦略-4:ニッチャー戦略と事例

もしあなたの商品・サービスがリーダー企業に大きく引き離されているのなら、フォロワー戦略とは別にニッチャー戦略という方法もある。

ニッチャー戦略とは、多様化していくニーズのすべてに対応するのではなく、特定のニーズに絞り込むことで独自性や専門性を発揮し、限られた分野で収益性を高めていく戦略だ。

移動体通信業界の事例でいえばディズニーモバイルがその典型だ。自分の身の回りを「ディズニーグッズで囲いたい」というレベルのディズニーファンからすれば「ディズニーのスマホ」といえばディズニーモバイルしか選択肢がない。そのため、多少高価でも「ディズニーモバイル」を選ぶことになる。

ニッチャー戦略とは、いわば特定のニーズにフォーカスして独占状態を創り出し、収益性を高めていく戦略だ。

市場成熟期のポイント

ここまでご覧になってきた通り、プロダクトライフサイクルは成熟期になるとニーズが多様化し、置かれている状況によって採りうる戦略も多様になる。その際に実務上重要となってくるのが「市場成熟期に入ったかどうか」の見極めだ。

市場成熟期の見極めに「絶対」はないが、いくつかの「見極めポイント」は存在する。列挙すると以下の通りだ。

市場成熟期のサイン-1:市場での普及率が7割を越える

普及率が7割を越えると購入者層は、

  • イノベーター層(2.5%)
  • アーリーアダプター層(+13.5%:16%)
  • アーリーマジョリティ層(+34%:50%)

を越え、メインの新規購入者層は「レイトマジョリティ層(+34%:84%)」となる。

商品やサービスの購入モチベーションが低いレイトマジョリティ層まで浸透したということは、市場成熟期のサインとなる。

市場成熟期のサイン-2:販売単価が下落しはじめる

プロダクトライフサイクルが成熟期に差し掛かると、流通在庫が積みあがってくる。

流通事業者はそれ以上の在庫が積み上げるのを恐れて在庫処分に走り、販売単価が下落し始める。よって販売単価の下落が始まった場合には、市場成熟化のサインとなる。

市場成熟期のサイン-3:デザイン性やキャラクターを売りにした商品・サービスがプチヒットする

デザイン性やキャラクターを売りにした商品・サービスが発売されたということは、企業側から見れば「基本性能で違いを出せなくなった」状態だ。

そしてそれらがプチヒットするこということは、生活者側も「基本性能だけでは評価しなくなった」ということであり、市場成熟期のサインとなる。

市場成熟期のサイン-4:格安商品・サービスがプチヒットする

前述したように、商品やサービスの開発競争は生活者の臨界点を越えると「性能はそこそこでもいいから安いものが欲しい」というニーズが出てくる。

もし、市場に「格安」をうたった商品やサービスが現れプチヒットしたら、それは市場成熟化のサインだ。

市場成熟期のサイン-5:似たような提供価値を持った代替商品がヒットする

例えば、プロダクトライフサイクルの導入期には大きな普及が期待されたタブレット端末だが、その後似たような提供価値を持った「タブレットPC」が登場し普及したことで普及速度は鈍化した。

このように周辺市場で似たような提供価値を持った代替商品がヒットした場合も、市場成熟化のサインとなる。

プロダクトライフサイクルをビジネスに活かすためには、普及率に関する定見を持たない限り、その時々の場当たり的かつ感覚的な判断で物事を進めてしまうことになる。

とりわけ市場成熟期の判断は、売上や利益の鈍化が一時的なものなのか、市場成熟期に差し掛かったためなのかが難しいが、ぜひ上記「市場成熟化のサイン」を参考にしてみて欲しい。

プロダクトライフサイクルの例-5:衰退期の戦略と事例

プロダクトライフサイクルの例-5:衰退期の戦略と事例

市場衰退期とは

プロダクトライフサイクルの衰退期とは、その分野に対する需要が先細り、売上や利益が落ち込んでいく時期を指す。

インターネットの出現によって、一気に市場衰退期に移行した市場は数多い。事例を挙げれば、音楽業界におけるレコードやCD、動画エンターテインメント業界におけるDVDレンタル店、写真業界における写真フィルムなどが典型だ。

シェア上位の商品・サービスであれば利益の確保が重点目標となるが、下位の商品・サービスは利益確保が難しくなるため撤退を迫られることもある。

市場衰退期における購入者層

プロダクトライフサイクルの衰退期も、成熟期と同様に購入者層は、

  • 新規に購入するラガード層
  • 買い替えや買い増しで購入するリピート購入者層

が混在する。以下、上記2つの購入者層について解説しよう。

市場衰退期における購入者層-1:ラガード層

ラガード層とは、英語では「ぐずぐずしている人」の意味であり、プロダクトライフサイクル上では「採用遅滞層」と訳されることが多い。

いわば、新たな商品やサービスを最後になってしぶしぶ受容するか、あるいは最後まで受容しない人のことを指す。

プロダクトライフサイクルの衰退期における購入者層-1:ラガード層

ラガード層はその分野に懐疑的だったり否定的だったりするため、旧来の商品を使い続ける傾向にある。

例えば、現在では写真撮影はスマートフォンやデジタルカメラが主流となっているが「自分は銀塩カメラしか使わない」と決めてかかっているような人たちといえばイメージが湧くだろうか?

残念ながらラガード層は、その分野に対して「拒否」の姿勢を貫いていることが多い。また、どんなに説得を試みても「価値観」や「信条」の話になりやすく、攻略は容易ではない。

ビジネスは、常に費用対効果を迫られる以上、ラガード層に対しては「見切る」という判断も必要になる。

市場衰退期における購入者-2:リピート購入者層

プロダクトライフサイクルの衰退期にも「買い替えや買い増しで購入するリピート購入層」は存在する。

しかし衰退期になると、流行に敏感な「イノベーター層」や「アーリーアダプター層」「アーリーマジョリティ層」は別の革新的な市場へ流出し、残っているリピーター層は「レイトマジョリティのみ」となることが多い。

プロダクトライフサイクルの衰退期における購入者-2:リピート購入者層

例えば、DVDレンタル市場でいえば、イノベーター層やアーリーアダプター層、そしてアーリーマジョリティ層の一部がネットフリックスやAmazonプライムなどの動画配信市場に流出しており、DVDレンタル市場に残っているのは「レイトマジョリティ層」が中心だ。

市場衰退期に必要な戦略

市場衰退期においては、大きくわけて「撤退」「存続」「新市場開拓」の3つの戦略オプションが存在する。

市場衰退期の戦略-1:撤退戦略

もしあなたのブランドが上位ブランドであれば「利益の確保」が重点目標となるが、残念ながら下位ブランドの場合には利益確保が難しいため撤退を迫られることもある。

なぜなら、大きなシェアを持つブランドは累積経験効果によって低コスト構造を維持できるため、例えプロダクトライフサイクルの衰退期であっても利益が出やすいコスト構造となりやすい。

一方でシェアが低いブランドの場合は利益を確保できるレベルのコスト構造を実現することが難しくなる。

撤退は多くの場合苦渋の決断となるため、議論されないまま先延ばしにされやすい。しかしタイミングを間違うと大きな損失につながる重要な局面である以上、時に冷徹な判断も必要だ。

また「撤退」は「雇用の問題」や「既存顧客との関係」に大きな影響を与える。

よって、もし「これ以上、事業の継続は難しい」と思ったなら早い段階で撤退を議論し「雇用問題」や「既存顧客との関係」に関してソフトランディングな道筋を引いておこう。

市場衰退期の戦略-2:存続戦略

もしあなたのブランドがプロダクトライフサイクルの衰退期に置いて大きなシェアを維持しているのなら「存続戦略」は有力な戦略オプションとなる。

存続戦略とは、競合ブランドが撤退するのを待って残存者利益の獲得を目指す戦略だ。「残存者利益」とは「競合ブランドが相次いで事業撤退した後、耐え抜いたブランドが残った市場を独占的に獲得し利益を上げること」を指す。

衰退期の商品例としてよく挙げられるのが「電卓」だ。

電卓市場はピーク時の1970年代から縮小が続き、10年前に比べても4割近く縮小している。そしてあなたもご想像の通り、パソコンの表計算ソフトなどの代替手段が普及し、大きく市場が成長する見込みはない。

また、競争環境を見ても、一時期、国内だけで40社あった電卓市場は、現在ではカシオ、シャープやキヤノン、米テキサス・インスツルメンツといった一握りの企業のみが扱っているのが現状だ。

そのような状況の中で、残存者利益を得ているのがカシオ計算機だ。

電卓市場は明らかな衰退市場だが、その中でカシオ計算機の台数シェアは5割を占める。そして残存者利益により、電卓事業の営業利益率は15%を越える高い水準を維持している。

このカシオの事例のように、もしあなたのブランドが高いシェアを獲得しているのなら、コストをセーブしながら競合ブランドの撤退を待つ「存続戦略」は有力な選択肢となる。

市場衰退期の戦略-3:新市場開拓戦略

市場再活性化戦略とは、市場の定義自体を捉え直すことで更なる市場拡大を目指すか、あるいは商品やサービスの新しい用途を見つけ出す戦略を指す。

例えばネスレの「ネスカフェ・アンバサダー」は、市場の定義を「家庭」から「オフィス」に変え、市場拡大に成功した例だ。

眼鏡チェーンのJINSも、市場の定義を「視力が悪い人」から「市場が正常な人」へ広げることで、JINS PCをヒットさせた。

また「ブランド拡張」で成功したのがユニリーバの「Dove」だ。「Dove」はもともとは固形石鹸のブランドだが、固形石鹸市場の衰退を見越して「フェイスケア」「ボディケア」「ヘアケア」市場にブランドを拡張させ成功させている。

更に、ブランドの在り方そのものを変えて成功した事例がエスエス製薬の「ハイチオールC」だ。

ハイチオールCは、1998年にブランドのポジショニングを従来の「男性の2日酔い対策」から、一気に「女性の美白対策(しみ・そばかす対策)」 に変更するリブランディングを行い、売上高を飛躍的に拡大させた。

これらのように、例え衰退市場であったとしても「市場の捉え方を変える」「ブランドを拡張する」「ブランドの捉え方を変える(リブランディング)」など視点を変えることで活路が見出せる場合がある。

イノベーションは、何もテクノロジーだけの話ではない。「市場」や「ブランド」を捉える「視点」を変えることで、これまでにないマーケティングイノベーションを起こせることもある。

プロダクトライフサイクルマネジメントのポイント

最後に、プロダクトライフサイクルマネジメントのポイントを3つほど解説して締めくくろう。

「市場力学」を先読みし先手を打つ

将来を予見し先手を打つことができれば、ビジネス活動を優位に進めることが可能となる。

冒頭でもお伝えしたが、プロダクトライフサイクルは多くのフレームワークと異なり「時系列の局面変化」を特徴としているため、未来に目を向けさせてくれるフレームワークだ。

あらゆるビジネス活動は、未来に向けてなされる。

そうである以上、ぜひプロダクトライフサイクル理論を実務に活用し、未来の局面変化を味方に付けて欲しい。

プロダクトライフサイクルマネジメントのポイント-1:「市場力学」を先読みし先手を打つ

各局面の「狭間」に着目する

プロダクトライフサイクル理論では、「導入期」「成長期」などの各局面に目が向きがちだが、真に重要なのは「各局面の狭間」にある構造変化だ。

これまで解説した通り、各局面ごとの「狭間」にはキャズムが存在する。そしてキャズムを越えるためには、生活者の性質の変化を洞察し、その変化に応じて戦略も変える必要がある。

各局面の「狭間」を洞察するは簡単ではないが、日々様々な数値をモニタリングし、いち早く局面変化に気づける仕組みを整えておこう。

プロダクトライフサイクルマネジメントのポイント-2:各局面の「狭間」に着目する

構造変化とPDCAを分けて考える

昨今ではPDCAサイクルが語られないビジネス現場は稀なはずだ。しかし一方で「PDCAが機能しなくなった」という方も多いのではないだろうか?

PDCAの考え方は、突き詰めれば「過去の実績に基づいて」「短期的な改善を繰り返す」ことだ。しかし鋭いあなたならお気づきの通り、製品ライフサイクルの局面変化は「構造的な変化」であることから「過去の実績」は役に立たない。

 ビジネスは短期的な成功だけでなく、長期的な競争力強化も求められる。もしあなたが「成果の出ないPDCA地獄」に陥っているのなら、製品ライフサイクルに基づいて「市場の構造変化」が起きていないかどうかを疑ってみよう。

プロダクトライフサイクルマネジメントのポイント-3:構造変化とPDCAを分けて考える

マーケティングを学ぶおすすめ書籍3冊

締めくくりに、マーケティング・ブランディング担当者へのお薦めのマーケティング関連書籍を紹介しよう。選定した基準は下記の通りだ。

  • k_birdが実際に読み、単純に「素晴らしかった」と思えるマーケティング関連書籍。
  • 実際に「マーケティング」に関して「初心者にもわかりやすく」しかし「必要な要素は網羅」している書籍。
  • 長年に渡って読み継がれており、時代を越えても変わらない「本質」や「原理」が見出せるマーケティング関連書籍。

もちろん、すべて「なぜ読むべきなのか?」という解説付きだ。

コトラーのマーケティングコンセプト

マーケティングには「セグメンテーション」「ターゲティング」「ポジショニング」「ブランド」など、様々な専門用語が居並ぶ。

本書は、現代マーケティングの父と言われるフィリップ・コトラーが、今日のマーケティングにおいて必要だと思われる80の基本用語・概念について、実例を交えながら解説したベストセラー書籍だ。

書いてある内容はマーケティングの初心者が読むべき基礎項目ばかりだが、特筆すべき点は、ABC順にマーケティングコンセプト・用語が解説されていることだ。

フィリップ・コトラーの代表的著書である「マーケティング・マネジメント」あるいは「マーケティング原理」は、MBA学生の必読書ともいわれているが、2冊とも日本語訳で1000ページ前後もあり、マーケティング初心者が気軽に手に取れる書籍とはいえなかった。

しかし本書はマーケティング戦略について、キーワードを数多く網羅したリファレンス的な書籍となっている。そのため、マーケテイングを勉強したい初心者にとっては、実践の中でわからない用語が出てきた際に、辞書的に引ける点が魅力だ。

もしあなたがマーケティング担当者として着任した際には、必読の参考書だ。

たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

本書は、P&G、ロート製薬、ロクシタン、スマートニュースで一貫してマーケティング畑を歩いてきた「マーケティングの実務家」が著した書籍だ。

いわゆる「事業会社側」で活躍する現役のマーケッターが、これだけのノウハウとフレームワークを惜しみなく紹介するのは、かなり珍しいことだと言える。

本書の特筆すべき点は、描かれている内容がマーケティングの実務経験に裏付けられているため、極めてリアリティがあり、かつ実践的である点だ。

かと言って、単なる「How To本」ではなく、本書の根底にはマーケティングそのものを成り立たせている本質や哲学が流れている。

もし、本ブログの筆者であるk_birdが「マーケティングとは何か?」と聞かれたら、自信をもって「この本を読め!」と挙げられる書籍であり、素直に「もっと多くのマーケッターに売れて(読んで)欲しい」と思える書籍でもある。

本書は「考え方」の面でも「実務」の面でも「マーケティングの真ん中」を行く書籍だ。

USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門

本書の執筆者である森岡 毅氏は、P&Gジャパンでヴィダル・サスーンのブランドマネージャーを勤めた後、P&G世界本社でパンテーンのブランドマネージャーを歴任した凄腕のマーケッターだ。

また、森岡氏は経営難に陥っていたUSJのCMOとして乗り込み、劇的にV字回復差せたことで知られる。そんな森岡氏が、USJのV字回復の軌跡を「マーケティング理論に当てはめて」執筆したのが本書だ。

アマゾンのレビューを見れば納得頂けると思うが、本書は単なるUSJのマーケティング事例本ではない。STPやマーケティングミックスなどのフレームワークを「そもそも論」から解説した上で、更にそれらを「実践に活かす方法」にまで落とし込んで解説しているマーケティングの名著であり、人気のベストセラー書籍だ。

「成功を引き寄せるマーケティング入門」というサブタイトルにもある通り実務上の示唆も多く、あらゆるマーケティング担当者が読むべき必読の入門書と言えるだろう。

このブログから書籍化した本4冊

ブランディングの理論と実践をつなぐ「ブランディングの教科書」

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冒頭でも紹介したが、再度ここでも紹介させていただこう。

ブランディングは、ややもすれば「デザインの話」「広告の話」「世界観の話」など、掴みどころのない抽象論に陥りがちだ。

しかしブランディングは「ブランド戦略」という言葉があるように、企業の成否を大きく左右する戦略のひとつだ。そして投資が伴う以上、一定の合理性と説明責任が求められる。決して、売上や利益から逃げてはならないのだ。

本書は、つい「感覚論」に陥りがちな「ブランディング」に対して「論理的な納得性」と「直感的な腹落ち感」の両面を追求した書籍だ。

「論理」が理解できなければ、ブランディングを体系的に理解することできず、再現性を生むことができない。

そして「直感的な腹落ち感」がなければ、ブランディングを実務に落とせず、成果をもたらすことができない。

本書は、広告代理店&外資系コンサルティングファームで培った「生の知見」と「体系的な解説」を通して、ブランディングの理論を実践へとつなげて解説している。

おかげさまで、本書はAmazon kindle売れ筋ランキング「消費者主義」ジャンルでベストセラー1位を獲得し、Amazonレビューでも、

  • 「ふわっとしたブランディングの本が多い中で、異彩を放っている」
  • 「事例も多いので実践のイメージが湧きやすい」
  • 「海外企業の事例ばかりが紹介されている輸入本だとピンとこない、という方にお薦め」

など、ありがたい言葉を頂いている。

もし本書を手にとって頂ければ、ブランディングの専門用語はもちろん、実践の手順や実務の勘所が、一通り学べるはずだ。

kindle Unlimitedを契約されている方は無償で手に入れることができるので、気軽に手に取っていただきたい。

シャープな仮説を生み出す頭の使い方」を徹底解説

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あらゆるビジネスは「仮説」こそが成否を握る。

なぜなら、仮説を生み出せなければ次の一手を見出しようがなく、検証のしようもなくなるからだ。つまり、ビジネスの成長は止まってしまうことになる。

しかし仮説思考の書籍の多くは、仮説思考のメリットは説くものの、肝心の「仮説思考のマスターの仕方」になると、

  • 「センスが必要」
  • 「経験の積み重ねが物を言う」

など「それを言ったらお終いよ」という結論で終わらせているものが多い。

一方で、本書は「仮説思考に必要な推論の手順」を、豊富な事例とともに解説している。よって、その手順通りに推論を重ねれば「センス」や「長年の経験」に頼ることなく、誰でも優れた仮説を導き出せるようになる。

おかげさまで本書は5版を重ね「読者が選ぶビジネス書グランプリ2021」にノミネートいただいた。NewsPicksやNIKKEI STYLE、lifehackerなど多くのメディアで取り上げていただき、中国や台湾、香港でも出版が決定している。

さらにAmazonレビューでも、

  • 「ここ数年の仮説思考系の書籍で久々のヒット」
  • 「自分オリジナルの武器にしていけそうな良書」
  • 「一生もののスキルになるのは間違いない」

など有難い言葉を頂戴しており、5刷を重ねている。

もしあなたがシャープな仮説を導き出せるようになりたいなら、ぜひ本書を手にとってみて欲しい。

ロジカルシンキングでは学べない「視点力」と「法則力」を身につける※無料のオーディオブック特典付

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別の言い方をすれば「そもそも何を考えるべきか?」という論点(=イシュー)は、視点が決めてしまうともいえる。

また、どんなに適切な視点を置いたとしても「ああなれば→こうなるだろう」という「予測のパターン(=法則)」が頭の中になければ、確かな仮説を導き出すことはできない。

本書はビジネス書から「視点」と「法則」を発見し、思考の質とスピードを上げていく独学術を解説した書籍だ。

1つの「視点」しか持てない人は、1つの論点しか設定することができない。当然、導き出せる仮説も1つだけだ。

しかし5つの「視点」を持てれば、5つの論点を設定できるようになる。その結果、5つの仮説を導き出すことができるようになるはずだ。

もしあなたが自由自在に「視点」を操ることができるようになれば、物事の多様な側面に気づき、次々と「新たな可能性」を拓くことができるようになる。

また、数多くの「法則」をストックしていけば、様々な現象に「法則」を当てはめることで「筋の良い仮説」を瞬時に導き出すことが可能になるはずだ。

おかげさまで、本書はThe21や日経、STUDY HACKERなど多くのメディアに取り上げていただき、発売3か月で海外の翻訳出版も決定した。Amazonレビューでも、

  • 視点力や仮説思考、抽象化スキルが身に付く良書
  • これまでの読書術の常識を次々と塗り替えている目からウロコの本
  • まさに「モノの見方を変える方程式」

など、ありがたい言葉を頂戴している。

もしあなたが「フレームワーク」だけでは得られない「視点力」と「思考スピード」を身につけたいなら、ぜひ本書で紹介する読書法を実践して欲しい。

8ジャンル57個の仕事術で「実践力」を身につける

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どのようなビジネスも、実践が伴わなければ成果は出ない。しかし、いざ「実践力」を身につけようとしても、その分野は、

  1. 時間管理術
  2. 段取り術
  3. コミュニケーション術
  4. 資料作成術
  5. 会議術
  6. 学び術
  7. 思考術
  8. 発想術

など多分野に渡り、最低8冊分の読書時間と書籍代がかかってしまうのが難点だ。

しかし、本書「超効率ハック」は、8つの分野の仕事術の「重要ポイントだけ」を抜き出し、ギュッと1冊に凝縮した書籍だ。

さらに、本書は「訓練や習慣化が必要な作業テクニック」ではなく「行動を変えるための頭の使い方」の解説に力を入れているため「頭のスイッチを切り替える」だけですぐに実践できるのも特色だ。

おかげさまで、本書を題材にしたSchooのオンライン授業では「思考法ジャンル」で人気ランキング1位を頂いた(139講座中)。また、lifehackerやOggiなど数多くのメディアで取り上げていただき、Kindleでは「オペレーションズ部門」でベストセラー1位を獲得している。

Amazonレビューでも、

  • 「思考と行動の質を上げるヒントが盛りだくさん」
  • 「読んでみると、頑張りどころを間違えてたことに気付かされる」
  • 「仕事が速い人はこれをやってたんだな、ということがよくわかった」

など、ありがたい言葉を頂戴しており嬉しい限りだ。

もしあなたが「短時間で網羅的に仕事術を学びたい」「根本から仕事の生産性を高めたい」と感じているのなら、ぜひ手に取ってみて欲しい。

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終わりに

今後も、折に触れて「ロジカルで、かつ、直感的にわかる解説」を続けていくつもりだ。 

しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。

それでも、このブログに主旨に共感し、何かしらのヒントを得たいと思ってもらえるなら、ぜひこのブログに読者登録Twitterfacebook登録をしてほしい。

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