この記事に辿り着いたあなたなら「概念化とは何か?」あるいは「概念化能力の鍛え方を知りたい」と考えていることだろう。
概念化能力は、これからの時代に必須となる能力といっても過言ではない。
なぜなら、日本ではすでに多くの市場が成熟しており、少子高齢化も進んでいくことから、今後は右肩下がりが予想されるからだ。右肩下がりの時代には、例え現状を精緻に分析し、今あるニーズに適応したとしても、市場そのものが縮小している以上、抜本的な解決にはならない。
多くの市場が縮小している今、あなたに必要なのは「過去の分析」ではなく「未来の創造」であり、これまでに存在しなかった新たな概念(=コンセプト)」を生み出し、具現化していくことだ。
よって今回は「未来を創造するコンセプト」を生み出す上で必須となる「概念化」についてわかりやすく解説する。この記事をお読みになれば、あなたは「概念化とは何か?」あるいは「概念化能力を鍛える方法」についても事例を交えて解説する。
また、以下の記事では「ビジネスに必須の様々な思考法」や「発想の幅を広げる方法」を紹介しているので、合わせてお読みいただきたい。
思考とは?|思考の意味とビジネスに必須の【思考法10種類】を解説
洞察力とは?|洞察力の意味と【本質を見抜く力】を鍛える全手順
クリティカルシンキングとは|批判的思考の意味と鍛え方を事例解説
概念化とは何か?概念化の意味を定義する
概念化とは?-1:概念化の意味
概念化とは、様々な物事を実体として捉えるのではなく、より大局的・全体的な視座から「概念」として捉えることを指す。
- 様々な物事(=実体)を実体として捉えるのではなく、より大局的・全体的な視座から「概念」として捉えること。
概念化とは?-2:概念化の例
ここで、より「概念化」をわかりやすく理解するために、例を用いて解説しよう。
今、あなたの前に水が存在していると仮定しよう。「物理的な液体としての水」は、そのまま捉えれば「実体」に過ぎない。しかし、より大局的・全体的な視座から「概念」として捉え直せば「水=飲むもの」となる。
そしてあなたが多角的に思考を巡らせることができれば「水=飲むもの」だけでなく、
- 水=洗うもの
- 水=火を消すもの
- 水=泳いで遊ぶもの
など「実体としての水」から多様な「概念」を抜き出すことが可能になる。これは、別の言い方をすれば「水(という実体)」の可能性を大きく広げたことと同じだ。
更に「水=洗うもの」という「概念」を、今度は実体化していこう。
すると「手洗い用洗浄水」「トイレ用洗浄水」「食品用洗浄水」「電子部品用洗浄水」など、実体化のプロセスの中で、さらに可能性を広げることが可能になる。
このように、物事を「実体」から離れた「概念」として捉え直したり、あるいは逆に「概念」を実体に落とし込んで考えるなど「実体と概念」を自由に行き来できるようになれば、単に「目の前にある実体」を捉えるより遥かに幅広い可能性を生み出すことが可能になる。
概念化とは?-3:概念化能力の意味
「実体と概念」を自由に行き来し、優れた概念を生み出すために必要なのが「概念化能力」だ。
概念化能力とは、様々な物事を実体として捉えるのではなく、より大局的・全体的な視座から「概念」として捉える能力のことを指す。
1955年にロバート・カッツが「本質を見極め活用するスキル」として提唱したコンセプチュアルスキルと同様であり「コンセプチュアルシンキング」と呼ばれることも多い。
- 様々な物事(=実体)を、単に実体として捉えるのではなく、より大局的・全体的な視座から「概念」として捉えることで、物事の本質を把握する能力。
もしあなたが自分の視野・視座・視点を広げ概念化能力を鍛えることができれば、頭の中で自由自在に「実体の世界」と「概念の世界」を行き来し、これまでにないコンセプトを生み出すことが可能になる。
概念化能力をトレーニングする:概念化能力の鍛え方
ここからは、概念化能力をトレーニングする方法について解説していこう。「概念化能力」は、大きく分けて3つの構成要素に分解することができる。
- 実体から概念を抜き出す「抽象化能力」
- 概念を多角的に操る「多角的視点力」
- 概念を具体に落とす「具現化力」
この3つの構成要素を順番にトレーニングしていけば、あなたの「概念化能力」は飛躍的に高まるはずだ。
以下、例を交えながら概念化能力を鍛える方法をわかりやすく解説していこう。
概念化能力をトレーニングする方法-1:「抽象化思考」を鍛える
抽象化思考とは、目の前の具体的な「実体」を手掛かりにしながらも、それに囚われることなく本質的な要素を抜き出し、形のない概念に抜き出していく思考方法を指す。いわば見かけのものに惑わされることなく、本質はどこにあるのかを探すような思考法だ。
例えば、以下の画像をご覧いただきたい。
これは実体だけを見れば「紙」だが、抽象化して「形のない概念」として捉え直せば「文字や絵を描き込むもの」となる。逆を言えば「文字や絵を描き込むもの」を実体化したものが「紙」だ。
このように「実体」の向こう側にある「概念」を洞察し「実体と概念」を自由に行き来する抽象化思考をトレーニングすることができれば、あなたの概念化能力は飛躍的に高まるはずだ。
概念化能力をトレーニングする方法-2:「多角的視点力」を鍛える
実体から概念を抜き出す抽象化思考をトレーニングしたら、次は「概念を多角的に操る」多角的視点力を鍛える習慣をつけよう。
視点の多さは、あなたが見ている世界の広さとイコールだ。そして人は、自分が見えている範囲でしか考え、行動することができない。
つまり「多角的な視点力」が身につけば「あなたが見える範囲」は劇的に広がり、優れた概念(=コンセプト)を生み出しやすくなる。例えば先ほどの「紙」を例に出せば、
- 実体=紙
- 実体から抜き出した概念=文字や絵を描き込むもの
だったが、多角的視点力をトレーニングすることで、
- 実体=紙
- 実体から抜き出した概念1:文字や絵を描き込むもの
- 実体から抜き出した概念2:何かを包むもの
- 実体から抜き出した概念3:折るもの
- 実体から抜き出した概念4:拭くもの
- 実体から抜き出した概念5:敷くもの
- 実体から抜き出した概念6:貼るもの
- 実体から抜き出した概念7:・・・
など、実体としての「紙」から多様な「概念」を抜き出すことが可能になる。これは別の言い方をすれば「単なる紙(という実体)」の可能性を大きく広げたことと同じだ。
このように「実体」から「概念」を抜き出し「多角的な視点」を加えることができれば、これまで見過ごしがちだったことに光を当て、違った切り口でコンセプトを作ることが可能になる。
概念化能力をトレーニング方法-3:「具現化力」を鍛える
「何かを包むもの」「折るもの」などつかみどころのない「概念」を、抽象度を下げて形のあるものへと具現化いくことは、優れた商品やサービスに落としていく上で重要な考え方だ。
例えば「紙(実体)+何かを包むもの(概念)=包む紙」というコンセプトを具体化していく場合、
- 「包む紙」というコンセプトなら、白い紙ではなくグラフィカルな模様を付ければ「ギフト包装紙」として売れるのではないか?
- 「包む紙」というコンセプトなら、薄い紙ではなく分厚い紙にすれば「段ボール」として売れるのではないか?
- 「包む紙」というコンセプトなら、紙に機能性素材を加えることで「産業用コーティング紙」として売れるのではないか?
など、様々な可能性が広がっていくはずだ。
このように「実体を抽象化する」「多角的な視点を取り入れる」「具現化する」というステップを踏むと、単なる「実体」を捉えるより遥かに物事の可能性は広がる。
まさにこれこそが「概念化能力」の真価だ。
概念化能力をトレーニングするメリット
最後に、概念化能力をトレーニングするメリットを解説しておこう。概念化能力を鍛えるメリットは、大きくわけて以下の5つだ。
- 柔軟な発想力が身につく
- アイデアやイノベーションを生み出しやすくなる
- 物事の重要な本質に気づくことができる
- 大局観が持てるようになる
- コミュニケーション能力が高まる
概念化能力をトレーニングするメリット-1:柔軟な発想力が身につく
ここまでお読みになればお気づきの通り「実体」という具体的なものを見ているだけでは、柔軟な発想力は身につかない。なぜなら「具体的」とは、非常に限定された狭い範囲に目を向けることであり、周囲の広い範囲を見えなくするからだ。
一方で概念化能力の一つである「抽象化能力」を鍛えることができれば「実体」という狭い範囲から適用範囲が広がり、物事を広く発想しやすくなる。
このように、抽象化した「概念」を様々な分野へ応用する発想法を「アナロジー」という。
先ほどの例でいえば「紙」を「包むもの」に抽象化し「ギフト包装紙」「段ボール」「産業用コーティング紙」などに発想が応用していったのがアナロジーの例だ。
概念化能力をトレーニングするメリット-2:アイデアやイノベーションを生み出しやすくなる
概念化能力を鍛えることができれば、アイデアやイノベーションを生み出しやすくなる。例えば、紙を「実体だけ」で捉えれば、
- 紙を大きくするか、小さくするか
- 紙を薄くするか、厚くするか
- 紙に色をつけるか、色をつけないか
など、工夫の余地は「具体レベルの改善」にとどまる。しかし概念化能力を駆使して「紙」を概念として捉え直すことができれば、
- 紙を「文字や絵を描き込むもの」と捉えてみる
- 紙を「何かを包むもの」と捉えてみる
- 紙を「折るもの」と捉えてみる
- 紙を「拭くもの」と捉えてみる
- 紙を「敷くもの」と捉えてみる
- 紙を「貼るもの」と捉えてみる
など「そもそもの在り方(=コンセプト)」自体に変化を起こすことが可能になる。
よく「日本企業は改善は得意だが、創造やイノベーションは苦手」といわれる。それはつまり目に見える「実体」を捉えて改善することは得意だが、目に見えない「概念」を捉え、コンセプトそのものを生み出すのが苦手、という意味だ。
そしてその根本原因は概念化能力の不足にある。
概念化能力をトレーニングするメリット-3:物事の重要な本質に気づくことができる
物事は、目に見えているものだけに囚われるのではなく、目に見えない背景を洞察することが本質の解明につながる。
物事を「実体」のままで捉えようとすれば複雑なまま捉えるしかなくなり、考えれば考えるほど多様さにおぼれ、訳がわからなくなってしまう。
しかし概念化能力の一つである「抽象化能力」を駆使すれば、複雑で情報量の多い具体的・実体的な物事の枝葉を切り、その本質を洞察することができるようになる。
なぜなら抽象度を上げるということは情報が少なくなることを意味し、必然的に物事の本質的な部分、重要な部分のみの情報が残るからだ。
概念化能力をトレーニングするメリット-4:大局観が持てるようになる
大局観とは、物事の全体的な状況や成り行きに対する見通しのことを指す。いわば物事の局面を俯瞰的かつ長期的に捉えて、状況や動きの「傾向」を見通すことだ。
一つ一つの局面を「実体」として捉えるだけでは、個別の事象に振り回されるだけで「本質を見抜いた」「全体の傾向」を評価できない。
一方で、概念化能力を鍛えることができれば、いったん個別の状況を脇に置き、視野を広げた上でビジョンや戦略、あるいは方針を決定することができるようになる。
概念化能力をトレーニングするメリット-5:コミュニケーション能力が高まる
会話には、様々なレベルが存在する。例えば先ほどの「紙」の例でいえば、
- 紙の大きさや重さなどの具体レベルの話
- 紙の在り方そのものを考えるコンセプトレベルの話(包むもの/折るもの、等)
では、抽象度・具体度のレベルが異なる。
もし会議などで様々なメンバーが抽象度・具体度の異なる話を始めたら、その会議が紛糾することは想像に難くないだろう。
よくありがちなのが「長期的な戦略の話」と「足元の売上の話」が入り乱れ合い、会議が紛糾するケースだ。こちらも抽象度・具体度のレベルが合わずに議論がかみ合わないケースだ。
しかし、もしあなたが概念化能力を鍛えることができれば「抽象度の高いコンセプトレベルの話をすべきなのか?」「それとも具体的な話をすべきなのか?」に自覚的になれるようになる。更に上級者になれば「コンセプトレベルの話を」「具体的な例を交えて話す」など「具体と概念のレベルを自由自在に切り替えて話す」こともできるようになる。
このように、概念化能力を鍛えることができれば「具体と概念」を自由自在に行き来しながら、状況や相手に合わせた適切なコミュニケーションをとることが可能になる。
概念化の本|おすすめ書籍4冊
締めくくりに、あなたにおすすめできる「概念化の本」を紹介しよう。選定した基準は下記の通りだ。以下のどれかに当てはまるものをピックアップした。
- k_birdが実際に読み、単純に「素晴らしかった」と思える概念化の本。
- 実際に戦略立案実務や事例共有に役立っている概念化関連書籍。
- 長年に渡って読み継がれており、時代を越えても変わらない「本質」や「原理」が見出せる概念化の本。
もちろん、すべて「なぜ読むべきなのか?」という解説付きだ。
概念化の本おすすめ書籍-1:知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ
論理的思考には限界が存在する。それは概念を生み出す際の「切り口」の限界だ。
ロジカルシンキングを行う際には「ロジックツリー」というツールを多用する。ロジックツリーは、目の前にある「問題現象」を要素分解することで根本課題を見抜いたり、あるいは「問題解決」の打ち手の選択肢を広げていくときに使われることが多い。
しかし「要素分解」も「選択肢の拡大」も、その「切り口」次第で結論は変わる。そうなると、いかに「筋のよい切り口」を見出せるかが重要なカギとなるが「筋のよい切り口」は論理では導き出せない。
本書は「多面的な視点」を持ち、複眼的に様々な切り口から物事を見る重要性を説いた書籍だ。
もしあなたがロジカルシンキングを越えて「多面的」「複眼的」に考える思考技術を手に入れたいなら、一読をおすすめする。
概念化の本おすすめ書籍-2:メタ思考トレーニング
例え同じ事実でも、視点の置き方によってその事実に対する解釈は変わる。
本書は、物事を「一つ上の視点」から客観的に考えるメタ思考の重要性と実践法を解説した良書だ。
これまで個別に見ていた問題も、一つ上の視点から眺めると実は「全体に対する部分」であったことに気付くことができる。
また、一見、規則性なく散らばった「バラバラの問題」も、一つ上から俯瞰的に眺めることで、その「意味」や「関係性」を読み解き、それらを引き起こす根本課題を特定して解決することができるようになる。
ビジネスの世界では「型の奴隷になるな。型の創造者たれ」という言葉がある。
もしあなたがメタ思考を身に付けることができれば、複数の問題にまたがる「概念」を読み解き、問題解決に活かすことが可能になるはずだ。
概念化の本おすすめ書籍-3:3D思考
本書は「視点を立体的に動かす思考法」を解説した書籍だ。
仕事の出発点にあるのは「思考」であり「思考の質」を高めるためには、自分なりの思考パターンから抜け出し、視点を切り替えるクセをつける必要がある。
なぜなら、様々な視点を自由自在に切り替えることができれば「多様な側面の課題に気がつける」「さまざまなアイデアが出せる」などのよい結果を期待できるからだ。
本書は、このような「視点の切り替え」に関して、
- 視点を置くレベル(視点の高さ・低さ)
- 視点のポジション(視座:誰の視点から考えるか)
- 時間
の3つに分け「視点を切り替えて考える方法」を紹介している。
もしあなたが「多様な視点を持ててない」「視野が狭い」と感じているのなら、本書は必読の書籍だ。
概念化の本おすすめ書籍-4:アナロジー思考
あなたは「イノベーションとは、すでにあるものの組み合わせから生まれる」という話を、どこかで聞いたことがないだろうか?
これはイノベーションの父と呼ばれるヨーゼフ・シュンペーターによるイノベーションの定義だ。日本では、当時「新結合」という訳で輸入されている。
アナロジー思考は、この「すでにあるものの組み合わせ」を活かして、類推の力によって問題解決策を生み出す思考法だ。
例えば「新しい金融機関のアイデアは?」というお題に対して、あなたはどのような金融機関が思い浮かぶだろうか?
うまくアナロジー思考を活用すれば「スターバックスのような金融機関」「ナイキのような金融機関」「ユニクロのような金融機関」など、アナロジー思考で「組み合わせ」を考えていくことで、これまでにあるようでなかったコンセプトの創出や、そのコンセプトの膨らましが可能となる。
本書は、このアナロジー思考を体系的に解説した上で、そのベースとなる「抽象化思考力の鍛え方」「身近なビジネスの世界への応用の仕方」「アナロジー思考の頭の使い方」等のノウハウを解説してくれている名著だ。
本書を手に取りアナロジー思考力を鍛えることができれば、アイデア創出の生産性は飛躍的に高まるはずだ。
その他の解説記事とおすすめ書籍
もしあなたが本解説以外にも関心があるのであれば、リンクを張っておくのでぜひ必要な記事を探していただきたい。
ロジカルシンキングとは|論理的思考のフレームワークと思考方法|例題有
PDCAとは|PDCAサイクルが回らない理由とPDCAを回す手順|図解解説
思考法・ビジネススキル関連の解説記事一覧|あなたをブランドにする思考法
ブランディング・マーケティング関連のおすすめ書籍紹介
終わりに
今後も、折に触れて「あなたをブランドにする思考法」の解説を続けていくつもりだ。
しかし多忙につき、このブログは不定期の更新となる。
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